Monochrome | ナノ

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 夢小説なんて所詮想像の産物で、読み終われば空しくなるだけ。そんな風に思うようになったのは、一体いつだっただろう。

 思い返せば、名前変換小説…所謂ドリーム小説言うものを知り、かつ一番はまっていたのは中学生時代だった。漫画の中では決して言うはず無い愛の言葉をキャラと同じ口調で言われると本当に胸が苦しくなった。家族の目を気にしながら画面を見てにやけたりしたのは、後にも先にもあの時だけだった。バレンタインやクリスマスだと言うのに恋人の一人も作らずに、「限定夢見なくちゃ!」と広大なネットを駆け巡ったりもした。今年の冬はあの素敵なクール忍者とすごすんだ!と平然と言っていた。
 我ながら痛々しい中学生活を送ってきたと思う。過去の過ちを黒歴史というらしいけれど、私のそれはまさに黒歴史だ。



 そんないい思い出のないブレザー仕様の中学を卒業し、セーラー服の高校へと入学してはや三年。今では立派な大学受験生だ。
夏の空気が冷たくなり、塾の壁に貼り付けられた『夏が勝負!』という文句は『これからの粘りが勝負!』に変わって行くのをよそに、塾と学校を往復するだけの毎日。既にオタクと呼ばれる層から隠れオタクへと進化した私は、携帯のブックマークさえ見られなければごく一般的な高校生だった。




 高校デビューをして脱オタクを企んだ私の野望は、なんてことは無い有り触れた失恋によって打ち砕かれた。
 想像の産物で読み終われば空しくなる。そう思っているくせにどうして読んでしまうのかと聞かれても、自分でもよくわからない。始めは単なる暇つぶしだったような気もする。けれど段々現実逃避になって、今では布団の中でも携帯で読むようになっていた。


 現実の恋愛に対しての現実逃避には、夢小説はある意味最適だ。変わらない『恋愛感情』がそこにあり、そこの先には必ずハッピーエンドがある。そうではない場合でも、そこには『悲恋』や『死ねた注意!』の警告文がついているから安心できる。つまり、物語上で動いている自分は知らなくてもそれを呼んでいる私が予期しない展開は基本的には無いのだ。

 それに、甘いと表記された小説は決して読み手を裏切らない。だからある日突然「ごめんやっぱり好きじゃなかった」と言って振られたりすることもない。もし言ったとしても、代わりに別の誰かが愛をつむいでくれる。現実では絶対にありえない台詞で、仕草で、愛のある強引さで。


 それに比べたら、現実の恋愛はなんて面倒くさい物なんだと思う。
言葉とは別に心があって、その心は私の知らないところで動き回ってどんどん私から離れていってしまう。
小説とは違ってラストが読めないから、息つく先が辛いのか幸せなのかも分からない。真っ暗な闇の中を、暗中模索しながら歩くのと同じようにして、前を向いていく。



 だから私は、現実の恋愛は苦手だった。
 だから私は、先が読めて安心できる画面上の『物語としての恋愛』が好きだった。別に夢小説である必要はそこまで無かったけれど、読む側として自分に当てはめやすくて読んでいた。ただそれだけだ。

 だから私は、別に漫画の世界に行きたいと本気で考えていたわけじゃなかった。ただただ、暇つぶしの延長だった。


……だから私は、こんな展開なんて望んでいなかったのだと声を大にして言いたい。





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