Violinist in Hyrule




六人の英傑と姫巫女は、ゲルド地方に集結していた。
最近 イーガ団が活発化し、砂漠で迷った商人や旅人が襲われることが増えたので、彼らはその牽制のために、治安維持活動をつとめたのだ。
なんとかイーガ団の動きが落ち着いてきた今日、英傑たちは、思い思いに休息を取ることとなった。
だが観光をするにも、ゲルドの街は男子禁制である。結局、ウルボザに率いられたゼルダ、○○、ミファー、そしてダルケルが、街へ向かうことになった。
街に入れないのは、リーバルとリンクだけだ。
どうしてダルケルが入れるのかは分からないが、考えてみれば、彼らゴロン族に性別という概念が存在しているのかさえ、定かではないところがある。
寒さには強いけれど、猛暑には弱いリトのリーバルとしては、涼しいカラカラバザールに置いていかれるということに、大した異論もなかった。

「いくらあんた達を信頼しているとはいえ、大切なゲルドの掟を、その長たる私が、破っちまうわけにはいかないだろう?」

そう言って、ウルボザは意味深長に片目を瞑った。

「まあ、私の目の届く限りは、だけどね」

彼女達が見えなくなるやいなや、リンクは素早くカラカラバザールの宿に戻り、自分の鞄をあさりだす。
取り出したのは、透かして見ることができるほど薄い紗と、豪奢なゲルドの金細工をあわせた、艶やかな淑女の服だった。

「まさか、君、それを着る気かい?!」

リンクは、当然だとでも言いたげに頷く。

「いや、いくら君が姫の近衛騎士でも、それはさすがに――」

捕まるだろ、とリーバルが言い終えるより早く、リンクは着替えをすませ、もう一揃いの服を彼に差し出した。
もしかして、この近衛騎士は、いつもこの服を色違いで常備しているのだろうか。

「ああ もう! 分かったよ、着ればいいんだろ!!」

全くどうしてこんな目に、と思いながら、リーバルは柔らかなそれを受け取る。
たっぷりしたズボンは、案外 履き心地が良く、ところどころ素の羽が露出する構造も、リト族にとっては、さほど違和を感じない。
それでも、どこか落ち着かない気がするのは、まぎれもなく、これから起こそうとしている行動への、罪悪感によるものである。
リーバルが、ゲルドの禁忌を犯したなどと知れたら、他の英傑やハイラル王家だけでなく、故郷リトの皆の恥だ。
――僕は、こいつが何もしでかさないよう、監督してやるだけだから。
そう、リーバルは何度も自分に言い聞かせ、レンタルしたスナザラシを、やけに自信満々に乗りこなすリンクの上空を飛ぶ。
着替えたお陰で、いくらか ましになったとはいえ、ジリジリと身を焦がす日差しや、向かいから吹きつける乾いた風には、どうも慣れなかった。

二人は、一切の問題もなく、ゲルド族の門番の前を通過した。
閑静なリトの村とは違い、ゲルドの街は、どこも活気で溢れている。
露天商が威勢の良い声で客を呼び込む中、香の甘い匂いと、ピリッとしたスパイスの香りが、そこかしこから漂ってきた。
ヤシの木の根元や、屋根の下に集まった人々が、ペチャクチャとお喋りに花を咲かせている。
リンクはというと、門をくぐってすぐに、大通りを外れた路地へ入っていき、それきり戻ってこなかった。
一人残されたリーバルは、なんだか馬鹿馬鹿しくなって、晴れ渡った空を仰ぐ。
もし男だとばれたら。もし先に入った仲間に見つかったら。
……それこそ一大事である。
リーバルが観光もそこそこに、バザールの宿へ戻ろうと、踵を返しかけた、その時だった。

「ちょっと、そこのリトのヴァーイ!」

肩を揺らしそうになったのを誤魔化すように、彼は後ろを振り返る。
若いゲルドの女達が数人、彼の髪に手を伸ばし、羨ましそうな声を上げた。

「あんた、三つ編み上手ねぇ」
「よかったら、私達にも、やり方を教えておくれよ!」

やんわり断ろうとして、慌てて嘴を閉じる。
リーバルの声はそれほど低くない。物腰柔らかな喋り方も、しないだけで、できないというわけではない。が、とても女性のそれと聞き違われるほどのものではなかった。
かと言って、ずっと黙って押し通すのにも、限界があるだろう。彼を女のリトだと思って、自然に距離をつめてくる彼女達に、全く悪意がないことが、かえって事態を悪くしている。

「わぁ、紐を編み込んでるんだ!」
「もしかしてリトの流行なのかい?」
「私、自分で髪を編むと、どうしても緩くなっちまうんだよ」
「分かる分かる! なかなか、あんたみたいに、綺麗には編めないのさ」

今すぐ上昇気流を起こし、この場を去りたくてたまらない。
三つ編みの仕方など いくらでも教えてやる。場所がここでなければの話だが。

「……えっ、リー――」

突然 響いた、聞き覚えのある声に、リーバルは目を見開いた。
そこに立っていたのは、彼と同じゲルド服を身につけた○○だった。
危うく、本名で呼びかけるところだった彼女は、急いで口を引き結び、彼をもう一度 頭からつま先まで確認して、困惑した表情を浮かべている。

「○○じゃないか! リトヴァーイちゃんと知り合いなの?」
「あっ…… うん、そうだよ。ヘブラへ行った時に仲良くなったの。ここでも会うなんて奇遇だね」

話を合わせろ、と目線で言われ、リーバルはコクコクと頷く。
様子からして、○○と彼女達は、もう既に知り合っているらしい。
今も、彼女達に腹をつつかれて笑っている。

「見なよ、このリトヴァーイちゃんの腹筋! ○○も見習わなきゃ!」
「ムリムリムリ!! だってリー――痛っ!」

だってリーバルだよ、と言いかけた○○の足を、彼は静かに踏んだ。

「リー?」
「り、リーちゃん。この子、リーちゃんって言うの。彼女、歌手だから、腹筋 鍛えてるんだよ」

もっと他に何か、マシな誤魔化し方がなかったのか、と彼は○○の発想力を憂う。
"リーちゃん" だなんて、村の子供にだって呼ばれたことがない。

「あんたも楽器を弾くんだろう!」
「そんなへにゃへにゃの身体じゃあ、芯のある良い音は出ないさ! なあ、あんたもそう思わない?」

女の一人に顔を覗き込まれ、リーバルはぎくりと身を強張らせた。
それに気づいた○○が、至って気楽なふうを装いながら、女の肩を軽く叩く。

「あっ、リーちゃんは人見知りなのよ。だからそんな急に距離を詰めちゃダメ」

彼女はそう言うと、まだ話したりなそうな女達の前に立って、笑みを浮かべた。

「私、これから、リーちゃんとお店を見てくるね」
「そうかい。じゃ、また今度、ゆっくりヴァーイ・ミーツ・ヴォーイでも飲みながら、一緒に話そうじゃないか」
「三つ編みのやり方も教えておくれよ!」

最後まで諦めずに約束を取り付ける彼女達と、大きく手を振って別れる。
残念ながら守れそうにないな、と思いながら、リーバルは○○に導かれるまま、人通りの少ない路地のはずれに連れて行かれた。
そうして、周囲に誰もいないことを確認するなり、今まで無言で歩いていた彼女が、もう堪えられないとばかりにクスクス笑うので、彼は顔をしかめる。
しかし、窮地を脱して気が抜けてしまったのか、リーバルも程なくして、声を殺して笑い始めた。
窮地は窮地でも、戦場のそれとは、全くもって似つかないそれだ。
それでも彼にとっては、一世一代の危機だったし、通りすがりの彼女を巻き込んだ、密かな大騒動でもあったのである。
今の二人は、実に奇妙な達成感で繋がっていた。

「さっきは助かったよ、○○。結構ギリギリだったけど」
「どういたしまして。本当にもう、ここで何してるの? っていうか名前ね。良さそうなのが、あれ以外に思いつかなかったのよ。でも、きっとこの世の誰も、リーバルが人見知りのリーちゃんと同一人物だとは思わな――アッハハハ!」
「ハハッ! ……おい、君のせいで笑っちゃったじゃないか。フフフ。なんだい、君は、僕が人見知りじゃおかしいっての?」

彼が、わざと意地悪く目を細めるが、○○は遠慮なく噴き出した。

「いや、おかしくないけど。ふふっ! でも、ガチロック相手にも、全然 怯まないリーバルが?」

そんな! と首を振りながらも、彼女はどこか楽しそうである。
リーバルが更に軽口を叩こうとした時、表通りの人混みから、一人抜け出た影が、こちらへ近づいてきた。
二人はハッとして顔を見合わせたが、相手との間隔が狭まるにつれ、向かってくる者の正体に気づき、すぐに肩の力を抜く。

「やっぱり、リンリンも一緒だったんだね」
「おや。その法則でいくなら、僕はリーリーなんじゃないの?」
「それだとパンダみたいでしょ」

手招きする彼女の後ろで、パンダって誰だろう、とリーバルは首を捻った。
服の裾をひらめかせながら駆けてきたのは、もちろんリンクである。
彼は小振りのイシロックほどもありそうな、特大ヒンヤリメロンを抱えていた。
曰わく、路端の競売で勝ち取ったらしい。
リーバルを放置してまで、彼が買いたかった逸品は、無事にその手に収まったというわけだ。
リンクは、すまなそうに眉を下げ、ぺこりと頭を下げる。

「それにしても、二人とも似合うね」
「普通、僕らが君に言う台詞だぜ、それ」
「どうもありがとう。そんなことより、ひとまず外に出よう」

ゼルダとミファーは、まだオイルマッサージを受けているが、ウルボザやダルケルはそろそろ宝飾店から出てきてしまうはずだ。
そう説明しながら、テキパキと人通りの少ない道を進んでいく彼女に、リーバルはつまらなさそうに言う。

「君って見かけによらずドライだよな」
「だって、まさかリンたんのみならず、リーちゃんまで拝めるとは思ってなかったからさ。まあ私もそれを期待して、単独行動してたんだけど、さすがに、これ以上 甘やかしてもらったら悪い」
「……最初から最後まで意味不明だったけど、詳しく聞かないでおいてあげる」

いつの間にか、"リンリン" から "リンたん" へと、呼び名が変わっている。
眉をひそめる彼の隣で、リンクが はにかみながら俯き、モジモジと両手を握った。
それを見た○○は何を勘違いしたか、きゃらきゃら笑って、リンクだけでなく、リーバルの肩も軽やかに叩く。

「やーだ、二人して照れないでよ。そうだ! 折角だし女子会しない?」
「名称から察するに、それは女性だけで集まって開く会合なんじゃないかと、僕は思うんだけど」
「ん? イマドキ女子会って言ったら、少人数で綺麗な格好して、素敵な場所に集まって、美味しいものを食べながら、色んなお喋りをするって事に決まってるでしょ。まあ私 女子会とかあんまり行った事ないから、よく分かんないけど」
「この場で唯一、信頼できる情報源である君が、女子会の何たるかを分かっていないのに、このまま突き進んで大丈夫なのかい?!」

イケるイケる、と至極 軽薄な態度で、彼女はリーバルの言葉を一蹴した。

「えっ、なになに、リンリンがヒンヤリフルーツパイ作ってくれるの? そうと決まればバザール直行だね。レッツ☆女子会!」

表の大きな門とは異なり、人気の無い町外れの門から、三人は小走りに砂漠へと出る。
持ち主のリザルフォスは腕の良いゲルド兵に倒されたのか、打ち捨てられ、半分 砂に埋もれている、数個の鋼鉄リザルシールドを拾い上げた○○は、いいことを思いついたとばかりに、高らかに宣言した。

「只今より女子会スナザラシラリーを開催します。ルールは簡単、ゲルドの街からカラカラバザールまで、スナザラシに乗って進むだけ。なんと優勝者には、もれなくイチゴとメロンのフルーツミックスジュースを、バザールにて進呈いたします」
「……いや、ちょっと待ちなよ。僕らは表じゃない方の門から抜けてきたんだよ。誰もスナザラシを借りてないじゃないか」

ゲルドの金細工をしゃらりと揺らし、リーバルは頭を抱える。

「第一、なんだい、その "女子会スナザラシラリー" ってのは。とりあえず女子会って言っておけば良いとでも思ってるんじゃないだろうね」
「細かいことは気にしないの。スナザラシは、野生のを捕まえればいいのよ。あ、私は忍び薬を飲むけど、二人なら無しでもできるよね? リーちゃんは、この盾を使って。ちなみに、ただの盾サーフィンしたり飛んだりしたら負けだから。はーい、位置について、用意、どん!」

リーバルは、やけに仰々しくクラウチングスタートから走り出した二人の背中に、呆れた声を出した。

「待てったら! ああ、どうして僕が、こんな奴らの面倒を――うわぁあああ!!」
「もー、リーちゃんが大声出すから逃げちゃったじゃーん」
「君がスナザラシを驚かせたせいで、僕は頭から砂をかぶる羽目になったんだぞ! って、おいリンク、何 黙って抜け駆けしようとしてるんだ。この僕を出し抜こうなんざ一万年早いよ」
「ん? リンたんってば、ヒンヤリメロンを運ばなきゃいけないから、ペナルティが欲しいだなんて、冗談言わないでよ。私なんか、生まれて初めて野生動物を捕獲してるのに」

砂塵を巻き上げて争う三人は、ただの年相応の、向こうみずな振る舞いに湧く若者にしか見えない。
彼らが満足するまで諍いに興じ、ようやく そのしょうもない一悶着に決着をつける頃には、とっくに野生のスナザラシ達は逃げ去っていた。
そもそも、道のりの四分の三ほどの場所まで、途中から始まった追いかけっこの延長で辿り着いていたのだから、彼らにスナザラシは必要ない。

ジュースは結局、それぞれが自分の分を支払った。
そして、地面に可愛いチェック柄のレジャーシートをひき、冷たいオアシスの水にヒンヤリメロンと爪先を浸けて、これまたやかましく冗談を交わしながら飲んだ。
普段から、あまり口の回る方ではないリンクは、残る二人の繰り広げる舌戦に、静かに相槌を打ったり、ふと表情を緩めたりして、ほんの時折、二言、三言、口を挟む。
それに煽られるように、言わずもがな立て板に水、特にこの二人の前では、油紙に火がつくどころか、爆弾矢で射抜いたかのように喋るリーバル。
いつもは傍観に徹しているのに、その実、止めどなく言葉を溢れさすことができる、能弁な○○。
二人は目まぐるしい勢いで、お互いに喋り倒している。それだけ長い間、ずっと会話を続けることができる程の量の話題を、一体どこに隠しているのだろうかと、口下手なリンクは不思議でならなかった。
リーバルはリトの村の他愛もない話や、マモノ討伐で自身が上げた戦果と功績を。○○は城下町での噂や、最近 自分が遭遇した、面白い出来事についてを話していた。
一つ一つは、それほど大したものでもない。だが、その合間に、からかいの言葉が挟まり、嫌味っぽい返事が混ざり…… と、それらの応酬をしばらく反復するから伸びるのだ。
公の場であったなら、暗黙のうちに省略されるはずの、脱線や横槍の混じったやりとりも、ここでは好きなだけ延長できる。

「そういえば、雪原の北の方にいたライネルが、降りてきてるらしいんだよね。三匹くらいいるんだけど、近くには馬宿もあるから、一週間後には退治しに行こうと思ってて」

三匹は怖いね、と、呟いてからしばらく、○○が顔を上げた。

「え、ちょっと待って、なんで私に言うの。ライネルとか もう試練だけで勘弁なんですけど」
「安心しなよ、ただの白髪らしいから。黄金なんか目じゃない。それを三匹くらい、僕一人で余裕だけど、ほら、君はこの前、ライネル素材がどうとか言ってたじゃないか」
「私の試練用に、お面作ろうと思ってたからね。でも、もうお面無しでクリアしたし。つまり今回は、リトの英傑リーバル様のソロ・ステージでよろしく」

そう言って、彼女は空になったガラスのコップを振る。
それを聞いたリーバルが、ニヤリと笑った。

「はあ? 女は度胸だぜ、○○!」
「じゃあ、男は愛嬌だよ、リーちゃん!」
「馬鹿じゃないの。突き落とすよ」
「無関係のリンリンが、こんなに可愛くおねだりのお手本をしてくれてるのに? ちなみにリンク、そんな顔をしても、私の分のヒンヤリメロンは渡さないから」

リンクは上目遣いするのをやめて、今度はしょんぼりしてみせる。○○はそれでも、断固として首を横に振り続けた。
しまいには、二人して堪えきれなくなり、きゃらきゃら笑い出す。
それを呆れたように眺めて、リーバルは息を吐いた。

「君達って、本当にシャクなやつらだな」
「じゃあシャクなやつトリオじゃん。結成パーティしよう」
「どう考えたってトリオじゃないだろ、君達二人だけなんだから。数も数えられないのかい?」
「リーダーは黄金のシャクなやつのリーバルね」
「うるさいぞ、白銀のシャクの分際で。っていうか、黄金はどう考えてもリンクだろ! 言ってるそばから僕のメロンを食べようとするな!!」
「リーダー交代になるけどよろしい?」
「チッ、なんかそれはムカつくな…… ホント、シャクだねえ」
「そんな噛み締めて言われると傷つく」

そう言う割に、ちっとも傷ついていなさそうな顔で、彼女は言った。

「あ、リンリンは、討伐同伴するの? そっか、雪原のタバンタヘラジカで、ピリ辛極上肉シチュー作りたいのね…… いいなぁ。私も食べたい」

えー、どうしよ、めっちゃ迷う、と小さな声で呟きながら、○○は爪先で湖面を蹴る。

「ハァ。僕も、マックスサーモンムニエルとイチゴクレープ、作ろうか」
「私もライネル討伐 行きます!! えっと、木の実のガンバリ蜂蜜漬けと、妖精の力水入りホットミルクを持って行きます!!」
「その程度の料理しか知らずに、今までよく生きてこれたね」
「今まではお鍋一つだけで料理しなかったからなぁ」
「ははーん。ひょっとして貴族の出だな」
「そうそう、実は私、由緒ある血筋のお嬢様ですのよ」
「よくもそんな いけしゃあしゃあと嘘をついてくれるね。自分からお嬢様って言うな、お馬鹿」
「まあ、何ですッテ! ○○お嬢様に対して頭が高いですワ!」
「声ひっくり返ってコログみたいだったけど大丈夫かい。少なくとも、由緒正しい令嬢や子息は、ご飯に釣られてライネル討伐に参加したりはしないぜ?」

○○は、勢い良くレジャーシートの上に寝転がった。
ヤシの木陰の間から太陽が覗いて、キラキラと眩しく輝いている。

「だって、“皆 凄いなー強いなー” って、演奏しながら見るだけでしょ。しかも今回、リーバルだけじゃなくてリンクもいるし。なんなら私いなくても余裕でどうにかなるし」
「君が来れば、手負いのマモノも大人しくなる」
「お二人ほどの実力者がいて、手負いのマモノが暴れる事態にはならないと思いまーす」
「念には念を、だ」
「素直にシャクトリで女子会第二ラウンドしたいって言ってよー。女も男も、大切なのは、度胸と愛嬌、それに最強なんだから。ねー、リンリンもそう思うよねー」

それに答える代わりに、何やらヘアアレンジを始めた彼女のため、リンクは大人しく髪の毛を差し出した。
リーバルはバツが悪そうに顔を顰め、乱暴に首の後ろを掻く。

「何だい、シャクトリって」
「シャクなやつトリオ」
「続いてたんだな、その話。全く君ってヤツは」
「……そう言えば、女子会第二ラウンドでライネル討伐とか、ますます女子会の定義がわからなくなるね」
「気づいてくれたようで何より」
「リーちゃん、リンリンのここ編み込めない」
「えぇ? 貸してみなよ」

少しばかり癖のある金茶の髪を、リーバルが翼の先で梳いてやっていると、それを膝を抱えて眺めていた○○が、ふと微笑んだ。
いつも喧嘩ばかりなのに、などと面白がっているのだろうか。それにしては、何か言い返してやろうというこちらの毒気を抜かれるほど、幸せそうな笑顔だった。
リーバルとリンクは顔を見合わせ、ちょっとばかし肩を竦める。
今更、百年のジェネレーションギャップくらい、彼らは気にしないのだ。

「ね、今度は他の皆も誘おう。色んな場所に出掛けなくたって、美味しいものが無くたっていいから。皆で一緒に、お喋りがしたい」

彼女は独り言のようにそう言う。

「まあ、そうすることは構わないけど。もし僕ら英傑全員で、そうやって集まりたいんだったら、ひとまずはガノンを倒してからだろうな。緊急時に僕らがいなきゃ困る」
「……うん。そうだね」
「討伐だか退治だか封印だか知らないけど、ちゃちゃっと終わらせれば良いのさ。何たって、ハイラルのリトには、この僕がいる!」
「ふふ、それは安心」
「そうだろ?」

快活に笑うリーバルの隣で、リンクも綺麗に編み込まれた髪を揺らし、任せてくれと言わんばかりに大きく頷く。
それから、相棒であるゴロンの豪傑の真似をして、バシンと良い音を立てて彼女の背を叩いた。

「リンクの言う通り、万事上手くいくさ。僕がいて、君達がいて、仲間がいて、それを応援してくれる人がいて。僕ら皆で、一緒にやるんだぜ。そう考えてみると、ちょっとばかし過剰戦力だな」
「うーん、ガノン瞬殺できそう。RTAだ」
「あーるてぃーえー? とにかくそうだ。そしたら僕ら英傑で集まって、神殿の女神様にお礼参りするついでに、古今東西ハイラルスイーツ巡りでもしよう。僕は前から、メーベスフレってのを食べてみたかったんだよね」

リーバルはサッと立ち上がって、すっかり身に馴染んでしまった淑女の服の、裾についた砂埃を落とす。
彼が伸びをすると、影も大きく伸び上がった。

「願掛けなんかするタチじゃないけど、君がどうしてもって言うんなら、乗ってやらないこともない。……よし、決めた! ガノンを倒すまで、スフレはお預けにする。倒した後に皆で食べに行こう。どうだい?」

乗った、と言うように、リンクも素早く身体を起こす。
こちらを振り返る二人は、灼熱の太陽を背負って尚、眩しく輝いていて、○○は思わず目を細めた。

---
~オマケ~

「じゃあ、僕は着替えてくるよ。そろそろ姫達が帰って――」
「えっ、リ、リンク? リーバルまでどうしたの?!」
「……おやまあ」
「相棒もリーバルも、その服、着たのか! 似合ってるな!」
「お、お二人とも!! ○○まで、一体何をなさっているのですか!! まさかとは思いますが、それでゲルドの街に入った、なんてことは」
「――嘘だろ」
「あっ、違うんだよ、ゼルダ様。私が、二人にこれを着てほしいって、無理矢理お願いしてね。今リーバルにめっちゃ怒られてたところなの」
「当然です。英傑ともあろう者が、男子禁制の決まりを破るなんて、絶対にあってはなりません。……どうして三人揃って目を背けるのですか!!!!」





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