alldayswithyou本文 | ナノ



 トントントントン。まな板の上でかまぼこを同じ幅に切って行く。そこに切れ込みを入れ、くるっと結べば飾りかまぼこの完成。いくつもいくつも同じものを作って、彩りよくお重に盛り付ける。

「さぁ後は栗きんとんに黒豆に……」

 朝早くから台所は大忙し。きりっとした寒さが水仕事をより一層過酷なものにする。そんな大袈裟な、と言う人もいるかもしれないが、目の前に鎮座するはお重お重お重の大群。だって今日は元日。

「名前ちゃん、ちょっと裏から大根持ってきてくれないかな」
「もう足りなくなっちゃいました!?取ってきます!」
「頼むー」

 調理場はもちろん廊下ですれ違う人達もみんな忙しない。まだ七時を回った所だけど、時間なんてあっても足りないくらい。準備しなくちゃいけないことは山程ある。裏の納屋へ向かったが大根は見当たらなかった。これは急いで買い物に行ってこなくちゃ。お行儀のよろしくないことは重々承知で、私は長い廊下を走る。
 すると、扉の空いた部屋からにゅっと伸びてきた腕。

「うええっ」
「よっと」

 絡めとられた私の体はスピードを落とすことが出来ないまま、腕を伸ばしてきた人物ごと部屋の中に転がり込む。その人物とは。

「晴明さま!」
「あけましておめでとう名前。朝から忙しそうだな」
「あけましておめでとうございます!本年もよろしくお願いします!それよか見てくださいほら!肘をすりむきました」
「それは廊下をドタドタ走っていたお前が悪い」
「大根が足りないんです!」
「まぁまぁそう騒ぐな。どれ、見せてみろ」

 晴明は私の腕を引っ張り顔を近づけてきた。よりかかるような格好のままでいるのが急に恥ずかしくなり、慌てて体を離す。それでも彼はまだ私の肘をまじまじ見ていた。頭が顔がぼうっと火照っている。きっと走ったせいだ。ひんやりした畳の上で足の指をもぞもぞさせる。

「どうしてこんな所に」
「いや名前に会いたくて」
「そういうのいいです」
「ひどいな」

 沈黙。会話が終わってしまった。何か話さなくちゃ。小さく一呼吸。冷えた空気が喉の奥を突く。

「そうだ晴明さま。近所に住んでる前髪のお兄さん知ってる?」
「ああ、髭でジャンプの人な」
「あの人昨晩一人で夜道を歩いてたよ。彼女いないのかな」
「寂しいな」
「清明さまも人のこと言えないけどね」
「お前もな」
「……晴明さま、雪積もってるね」
「クリステルが降ると言ったのだ。一時間おきに祈祷しておる」
「クリステルさまの出てる正月特番録画した?」
「もちろん。我が家のHDD総動員で予約ずみじゃ」

 視聴用と保存用撮るなら容量足りるのかなぁと思いながら、晴明の顔をぼんやり見つめる。買い物に行かなきゃいけないのに、私こんなところで何をしてるんだろう。どうして動けなくなってるんだろう。

「血出てないし大丈夫じゃろう」
「晴明さま、ちかい」
「うん。いやか?」

 彼は私の手をとって自分の頬に押し付けた。冷たいな、と言いながら更に頬擦りされる。面食らう。これはどういうことだ。熱い、冷たい、熱い、ああ目眩、目眩が、

「わわわ私買い出しに行かなきゃ、いけない!ので!」
「空気を読め」
「えええむり、むり、」
「俺と大根どっちが大事だ」
「大根!」

 勢いよく突き飛ばしてしまい、清明が畳に頭をぶつける音がした。やっとの思いで部屋から這い出す。私は瀕死のHPの中あらん限りの力で廊下を走った。目蓋の裏がチカチカする。振り向いたらしょんぼりと項垂れる彼の姿が見えたが、もう知らない。




ソウ




Back




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -