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 あけましておめでとうございます。
 私の新年の挨拶はバイト先の店長に捧げた。
 何度も経験してきた年越しとこれから何度も経験するだろう新年の幕開けにはそれ程重きを置いていない。私のような、しがないアルバイトには時給が上がる大事な稼ぎ時なのだ。なので、明日はまた夕方から働きに行くのだけれど。

「なんで普通に家路に着くんだ」
「着くでしょう、そりゃあ」

 私はこのあと用事を済ませて、寝て、餅を食べ、年賀状を整理し、またバイトに勤しむ予定だった。しかし、どうして会う約束もしていないのにこの男はさも当然という態度で私の家の中でこたつに入っているんだろうか。
 こういったことは初めてではないので特に驚いたりはしないけれど。

「正月だぜ?」
「そうね」
「いや、違う違う。正月だって言ってんの」
「あけましておめでとう」
「おめでとう、じゃなくて」

 なにやら機嫌があまりよろしくないみたいだ。これは珍しい。全蔵はあまり怒りを表すタイプではないので、不満そうに歪んだ口元を記憶に焼き付けておこうと思った。

「なにかあった?」
「新年があけた」
「世間ではそうね」
「俺達にもあけただろ」
「まぁ、時間は唯一にして無二の平等だからね」
「そんな話は酒でも飲みながらグダグダやんのが楽しいんだ」
「どうしてちょっと怒ってるの」

 だいたい全蔵も年越しは仕事をしていたのではないのか。それなのに私よりも早く私の部屋でくつろいでいるなんて。
 帰ったばかりで冷えた体を暖めようと、こたつに入ろうとしたら足でガードされた。ここは誰の家だと思っているんだ。

「最近の若い奴はどうなってんだ。風情ってもんを分かってなさすぎる。ここに来る前も若い娘が独りで暗がりのなか歩いてたぞ。危ないったらありゃしねぇ。正月だぜ?」
「送ってあげたら良かったのに」
「新年早々通報されるだろ」
「私は帰りにかっこいいお兄さんと可愛い子が仲良さそうに歩いているのを見たわよ」
「それだ!」

 そう言って勢い良くこたつから出た全蔵は、やっぱり寒かったのかまたこたつに入り直した。なにがしたいのか。
 その隙に私もこたつに入りやっと暖を取ることに成功した。

「そういうことが、大事なんだよ」
「こんなこと聞くのは忍びないけど、寂しかった?」
「……別にな、年越しを一人で迎えてもどうってことはねーんだが、挨拶や顔見せぐらいはしろよ、とな、思ってだな」

 不機嫌の理由はこれだったのか。なんとも珍しい。普段は淡白なくせにたまに些細なことでこうやって拗らせてくる。その証拠にこたつの中で私の足を複雑に絡めて、どうやっても身動きが取れなくなった。

「ごめんなさい。でも全蔵も疲れてると思って」
「変な気を使うなよ」
「会いに来てくれてありがとう」
「いや、別にな。あけましておめでとう」
「おめでとう。今年も宜しく」

 こんな事は滅多に起きないため、これはしっかりとサービスしてもらわないといけない。

「もうちょっとしたら、初詣行こうか」
「あー。こたつから出れたらなぁ」

 そういって横になりみかんを食べ始めたので、絡まった足に力を入れて締めてやった。




桂谷




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