縁談
 其の四

「ふぅん、rareな女じゃねーか」
翌日、見合い相手に諭されたことを言えば政宗は感心したようだった。
「そこまでわかってんだったら逃がさねえ方がいいな」
「逃がさないなどと。蔦殿はこの小十郎にはもったいないかと」
「chanceを逃がす馬鹿がいるかよ。お前にとっていいってことは」
政宗はぐいと小十郎に顔を近づけた。時折、この若い主は妙に老成した表情をする。
「他の野郎にとってもイイモンだってことだ。you see?」
「――……」
「……、まあ今まで縁談断ったやつは馬鹿だってことだ。お前はどっちに入りたい?」
言われて小十郎は眉間にしわを寄せた。


お前がdateしてくるなら、午後はちゃんと稽古も手習いもするぜ――妙に張り切っている若い主に半ば放りだされて、小十郎は城下への道をてくてくと歩いていた。「でぇと」の意味がやや図りかねるが、「蔦と会ってこい」ということだと解釈して矢内の屋敷を目指す。
――着いたところでどうしたらいいのやら。
そんなことを考えているうちに矢内家についてしまった。門をくぐれずにその前をうろうろする。
――待て、これでは完全に不審者だ。
自分の強面を思って立ち止まるも、はてどうしたものやら分からない。そんな時、何やら明るい声が門の内側から聞こえてきた。ますます慌てるもののどうしていいかわからない。
結局「行って参ります」という声の主と鉢合わせすることになってしまった。
「片倉様」
着飾っていない蔦を見るのはもちろん初めてだ。見るからに働き者という格好で、手には文らしきものを持っている。先日の席の蔦はもちろん美しかったが、小十郎はむしろこちらの飾り気のない姿の蔦に目を奪われた。
「父にご用ですか?」
「いや……」
屈託なく的外れなことを言われてしまい小十郎は内心肩を落とした。それでも気を取り直して、聞いてみる。
「どちらに?」
「お使いです。家のものが忙しいので、お文を届けに」
「……」
そこでピンときた小十郎は少し早口で言った。
「ご一緒いたします。検断職のご息女をひとり歩きさせるわけにはまいりません」
「ご息女、なんて。すぐそこですよ?」
「いえ、いけません。参りましょう。どちらですか」
強引に言えば蔦は観念したらしい。引き際を心得ている人だ、と小十郎は好ましく思って頭を振った。
「片倉様?……よろしいですか?こちらです」
並んで歩けば、歩幅が違う。小十郎は蔦の小ささを初めて自覚してゆっくり歩いた。背中まで伸びる黒髪はつややかで、動いても邪魔にならないようにひとつに縛っている。横顔がきれいだ、と盗み見るようにすれば、何故か目が合い蔦がほほ笑むので慌てることが数度あった。
文を届け終わったところで策が尽きた。ただ、これまでも特に何か話をしていたわけではない。こういうときは甘味所に行くのが常だろうかと思って口を開こうとすると、蔦に先手を取られた。
「少し歩きませんか」
甘味所よりはそちらの方が気が楽で小十郎は一も二もなくうなずいた。

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