縁談
 其の二

「Hmm, 矢内の娘か」
数刻後、若い主に事の次第を告げればやや興味なさそうにそう言っただけだった。こちらもこちらで、母の故かあまり女という者に対して希望を抱いていない所があるからだろう。
「で、いくつだよ。そいつ」
「政宗様より5つほど年上と」
「じゃあ俺とお前のちょうど間だな。いいんじゃねぇの。今度嫁いでくる愛姫って俺より一つ下だろ。お前のwifeが喜多より歳が近ければ何かと便利かもしれねぇぞ」
「ご自分のことを他人事のように申されるのではありません。……また南蛮語ですか」
「そこはthroughしようぜ、小言はno thanksってヤツだ」
若い主は何かと覚えた南蛮語を使いたがる。前後の文脈で何が言いたいかだいたいわかるが、小十郎は少々頭が痛い。同僚などが助けを求めるようにこちらを見てくることが多いのだ。「察しろ」と眼だけで返すのもなかなか疲れる。そんなことを思っている間に、政宗の中で勝手に話が進んだらしい。
「父上の手前断るわけにもいかねえだろ。とんでもない醜女とか性格悪そうだったら俺からも父上に言ってやるから、会えばいいだろ。会うだけタダってやつだ」
さすが輝宗様のご嫡男、なんだかんだ言って似ていらっしゃる、と小十郎は内心感心しつつそっと息を吐いた。



数日後、設けられた席で小十郎は矢内重定とその娘と対面した。重定はちょっと浮ついているようで、口数が多い。反対に娘は黙っている。顔はやや伏せられていて仔細に観察はできないが、とりあえず政宗の言うようなとんでもない醜女ではないようだった。むしろ顔に問題があるのは俺の方か、と男は思う。
若い主のように整った顔ではなく、強面の小十郎である。それがいい、と言ってくれるのは姉の喜多くらいの歳の女と遊び女ばかりで、蔦の年頃の娘に懐かれた記憶はとんとない。
――まあ、だから顔を伏せられても仕方ない。
小十郎が娘の黒髪を眺めながらそう思った時だった。不意に娘がすっと顔をあげた。
円らな、というより少し切れ長の目は可愛らしいというよりも美しいという形容がしっくりくる。その目が数度瞬きした。まっすぐ見つめてくる瞳に男が少したじろぐと、娘の目がわずか見開かれた。そして柔らかな笑みが目元と口元に控えめに現れて、小十郎はギクリとした。その間も重定は喋り続けていた。
しばらくして、重定と輝宗から見合いの仲人役を任された人物が例の言葉を口にした。
「さて、後は若いもの同士で……」
そんなわけで、世間の通例のごとく小十郎は重定の娘と二人きりで対峙することになってしまった。
「……」
「……」
重定と仲人の気配が去るまでどちらも口を閉じたままだった。

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