tagelied ――21と16――
其の壱

祝言の夜――所謂、初夜以来、己の中のいくつかの我慢の緒のうち、雄の本性を抑え込んでいたものがブッツリと途切れてくびきさえも消えたのではないか。
ぐったりと床へ沈み込むようにして眠る妻の顔を見て小十郎は昨夜の行いを後悔していた。
蔦は16、すでに月のものもあり子を宿せる大人の体だ。しかし働き者だがどこか細い印象を受ける体には育ちきらないものも感じられる。もう少しで完成されるが、まだ足りぬ――そのわずかに残る幼さへ無茶を強いたのではないかと交わるごとに思う。
蔦はしっかり者で、すでに女中たちをまとめ上げる力量を見せつつあるが、夜になり二人きりになれば5つの歳の差を思い知らされる。だがそれも理性が獣を押さえつけている間のことで、本性が勝ればどうしていいかわからなくなる。未だ慣れない蔦に合わせて加減をしようとするが、上手くいったためしがない。
そしていつもきびきびと動く蔦が翌朝気だるげにしているのを見て、後悔するのだが――反省は次にいかされない。
はぁ、と己にため息をついて蔦の髪を撫でる。何もなかった日の翌朝は蔦は必ず小十郎より早く起きているものだが、何かあった日は小十郎が蔦の寝顔を眺めることになる。
髪を幾度か撫でれば、蔦が目を覚ました。
「……おはようございます……」
「おはよう。……大丈夫か」
「前よりは、……ずっと」
蔦が赤くなった顔を隠すように胸元に身を寄せてきたので、小十郎はその背に腕をまわして撫でてやった。朝寝をしたい、と切に思う。優しくしてやりたいと思う。だが蔦は日が部屋に差し込めば5つ下のまだあどけないところのある女から、働き者の妻に戻ってしまう。
もぞりと腕の中で身じろぎされて、小十郎は蔦を解放した。
解放された妻が夫に聞く。
「もう少し休まれますか」
「……いや。俺もすぐに行く」
そうですか、と蔦は笑う。小十郎はすこし苦く笑った。


朝餉を済ませて、さて今日はどうしたものかと考える。今日は暇をもらったのだ。
畑に出るか、書物に目を通すか――と考えたところで女中頭がふと言った。
「旦那さま、また畑に出る気ではないでしょうね」
じと、と睨まれて小十郎は僅かにひるんだ。
「だめか。今日は家で何かあったか」
特に家中で用事があった記憶がなく、聞けば女中頭は呆れた顔をした。
「奥さまと少しお出かけになってはいかがですか。そりゃあ奥さまだってお一人でお出かけになられることもありますけど、ちょっとは畑以外にもどこかへお連れしたらどうですか」
「……。そういうことか」
「ええ、そういうことです」
寝所で今は仲睦まじくても、そういう日常のことを怠ると奥さまが嫌がるようになりますよ――女中頭の躊躇のないあけっぴろげな物言いに小十郎は面喰った後、赤くなって頭を抱え髪を掻き毟った。居間やその周辺に他の使用人や蔦がいなかったのが幸いである。もちろん、女中頭であるからそこら辺はわかってやっていたのだろうが。


「出かけるぞ」
と箪笥に衣類を片づけていた蔦に言えば、彼女はきょとんとした顔で見上げてきた。
「はあ、畑ですか」
「……、ちょっと様子は見ていくが。茶屋にでも行こう。それから――どこか行きたいところはあるか」
女中の勧めももっともだと思い、つまりは政宗の言う「でぇと」に誘ったつもりだが、畑という単語に反応したのがまずかったらしい。箪笥の抽斗を戻した蔦が頬に指を添える。
「金継屋に預けた茶碗がもうできているころだと思いますし、新しい裁縫道具を見て回りたいです。売り込みに来られるとどうも見れるものが限られてしまって」
「……そうか」
どうもお使いがてらの散歩と勘違いされたとみえる。おそらく「でぇと」というものは二人で仲を深めることに主体を置くものと思われ、それならば、例えば小間物屋を冷やかしたりなどしてのんびりと過ごすことが正解だろう。が、蔦の申し出では家の用事をこなすついでの散歩である。
――まあ、荷物持ちでもしてやろう。
小十郎は自分の物言いの下手さを反省して内心肩を落としつつ、蔦に出かける用意をするように言った。――ただし、畑は見るだけなので町に行く格好をしろと付け加えて。

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