変化
 其の五

日が傾いてきてその日の作業は終わった。蔦がいくつかとれた野菜を老爺と部下たちに渡して、残りを持参したざるへ載せる。そして牡丹餅の入っていた籠には使い終わった急須と湯飲みを入れる。
「それでは皆さまありがとうございました」
綺麗に礼をする蔦に部下四人が赤くなる。
「いえっ、おはぎいただきましたし!」
「おいしかったです!」
「蔦さま、……と片倉様のお役に立てたなら幸いで!」
「また次もなんなりと!」
口々に言う部下たちに、
――やはり蔦が目当てだったか。
と思い、小十郎はその傍らに歩み寄った。
「おい、ほら籠よこせ」
「え?」
蔦が答える前に小十郎は籠を蔦から取り上げていた。
「野菜のせたざると割れ物入れた籠持って両手ふさいで、こけたらどうする気だ。
……お前ら、助かった。じいさまとお鈴も気をつけて帰れよ」
そう言うと小十郎はくるりと踵を返した。あわててそれを蔦が追う。
それを見ながら、部下たちが言う。
「片倉様の新しい一面を見た気がする……」
「ああ、なーんか、親しみがわいたな」
「ほのぼのするねぇ」
「普段鬼みてえなのにな」
そんな若者たちの言葉を聞き、小十郎と蔦の後ろ姿を見送りながら老爺は思う。
――お変りになられた。
と。
小十郎がまだ祝言を挙げる前のこと、畑の指南をしてきてほしいと言ってきた彼に老爺は
――なんとまぁ何か思いつめたところのあるお武家さまだ。
と思ったものである。それが何だったか老爺にはよくわからなかったが、とにかく礼儀正しくはあるが近づきがたかったことだけは良く覚えている。
それが変わったのは、片倉様が嫁を貰われた、と聞いてしばらくたったころだったか。
――よく微笑まれるようになった。
言葉は相変わらずどこかぶっきらぼうだったが、雰囲気が変わった。それは老爺にとっては大変に喜ばしい変化であった。身分が上とはいえ、せっかくの若いものがあれでは、と少し気になっていたのである。そして心細やかな気遣いをしてくれる蔦に、老爺はただただ納得したのである。

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