悪ガキども嫁を見に行く
 其の八

「あーあ、今日は説教日和だな。重定のおっさんにも説教されたから」
「矢内殿が?」
「ああ、あのおっさん伊達の若君に説教しやがった」
だが言葉の内容とは異なり、政宗は楽しげに笑う。
「少し蔦と似てるな。俺が、時宗丸が、誰かなんて気にしちゃいねぇ。自分のガキみたいに叱ってくれた」
小十郎は「くれた」という表現に耳を奪われた。政宗の顔は怒られたというのに晴れ晴れとしている。
「でも今日は仕方ねぇ。そんだけのことはしたしな」
覚悟は決めたぞ、と政宗が言うので小十郎の口元が緩んだ。
そんなやり取りの中、黙っていた時宗丸が「あれ?」と言った。
「でも城下に降りてきたのはわかるとして、なんであの路地がわかったのさ」
問われて小十郎は答えた。
「雷神の導きにて。稲妻を帯びたでしょう。お二人もそろそろアレの修行に入った方がよさそうですな」
「げ、あれ、キツイって聞いてんだけど」
時宗丸が慌てる。小十郎はニヤリとした。
「確かに。だが、使えるようになれば一騎等千。悪いものではない。鳴神を見たろう?」
「まあ確かに……便利だけどさ……」
「あの鳴神も続けてもう一撃放てないかと試しているところだ」
「えっ」
小十郎の言葉に政宗と時宗丸はさすがにぎょっとした。小十郎は笑う。
その後また黙って歩くと、しばらくして時宗丸が遅れだした。
「おい、時宗丸」
政宗が言うと、幼児帰りしたかのように時宗丸が言った。
「小十郎、おぶって。オレ攫われたし、色んな意味でピリピリしたし、疲れた」
「Ah? お前それでも武士の子かよ」
「武士の子だって疲れるよ。蔦よりはまだ軽いと思うし」
手を突き出されてそう言われては、小十郎も仕方ない。屈めば、時宗丸はおぶさってきた。背負いなおして立ちあがる小十郎の隣に政宗が並ぶ。
「なんか懐かしいな、この感じ」
「……寺を思い出しますかな」
「かもな」
またしばらく歩いて、城の門が見えた頃だった。
「あ」と時宗丸が声をあげた。
「どうした?」
二人に問われて、時宗丸はにんまりする。
「小十郎、蔦の胸って柔らかかったか?!」
ピタ、と小十郎が立ち止まった。政宗まで驚いて立ち止まる。
「何を言って」
「Ah-ha! そうだ、男のromanじゃねぇか!横抱きにすりゃ株も上がるのにと思ったが、そういうことか!」
無邪気な二人は、小十郎が帯電し始めていることに気づかずはしゃいだ。


――その後、本物の雷が落ちたとか落ちないとか。説教が一刻分増えたとか増えないとか。真相は本人たちしか知らない。

(了)

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2010年9月8日初出 2010年9月11日改訂
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