悪ガキども嫁を見に行く
 其の七

蔦を休ませるために部屋を辞して、もうひとつの客間に通されれば政宗と時宗丸が正座し背筋を伸ばして重定の前に座っていた。出された菓子はなぜか手付かずだ。二人とも食べざかりだから、茶屋の団子でお腹いっぱいのはずがない。よく見れば、ふたりはシュンとしているようにも見えた。
「矢内殿?」
「おお、片倉殿」
重定は政宗の隣に座るよう小十郎を促した。
「今回のことは、私が沙汰をすることになるでしょう」
そう言って重定は天井を見上げた。
「……片倉殿と若君、時宗丸様が蔦を訪ねていらっしゃって、はぐれた時宗丸様が賊に攫われ、片倉殿が対処した。そういうことにいたしましょう」
年齢はばらばらだが、等しく重定よりずいぶん年下の者たちが首をかしげる。
「そうしませんと、若君と時宗丸様にも不利でしょう」
重定は顔に苦い笑みを浮かべる。真っ先にはっとしたのは政宗だ。
「それに片倉殿が蔦のために賊をあそこまで痛めつけた、といより実元様のご子息のために、というほうが通りやすい」
「あ――」
重定の言いたいことは、小十郎が異常なまでに賊を痛めつけたためそれなりの罪に問われる可能性があるということであった。思い至って、小十郎は身を固くする。
「まあ、賊の方が罪が重いですからあまり気にすることでもないのかもしれませんが」
そこで重定はちらりと政宗を見た。政宗はしっかりとその視線を受け止めた。伊達家の後継者はしっかりと政宗と定まっているわけではない。敵対勢力があるなら、綻びはないほうがいい。今回のことは、その“敵”に政宗排除のなんらかの糸口を与えてしまう可能性があった。重定はそれが言いたいのだ。政宗は居住まいを正した。そして、深々と頭を下げる。
「ご配慮、感謝いたします」
改まった政宗の声に小十郎も続く。時宗丸も察して頭を下げた。
「なに――若君に恩を売る好機とみただけです」
重定は笑う。それ以上重定はその話をせず、菓子と茶を勧めた。三人はそれを平らげてから、矢内重定の家を後にした。

「父上が見どころがある、というわけだ」
屋敷を出てしばらく歩くと、政宗がぽつりと言った。
「……そうか、あの賊は検断職の沙汰にかかるのか」
「そうなります」
「そういう務めもあるんだな」
「……」
「そしてそれが必要とされる理由がある」
「……はい」
政宗はそこで押し黙った。何かを考えている、と小十郎は察する。
「俺はもっと学んで、色々見なけりゃならないな」
「はい」
「……今日は『南蛮語よりも』、とか言わないんだな」
「この小十郎、さすがにそこまで無粋ではありません」
憮然として言えば、政宗は笑った。その政宗が、ふと言う。
「そういえばお前、なんであそこにいたんだ?」
「姉上に言われまして」
「喜多が?」
「お茶の時間なのに、いらっしゃらないから探して来いと」
「……じゃあすでにバレてんだな」
「当たり前です」
「だよなぁ」
はーっと政宗はため息をついた。

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