悪ガキども嫁を見に行く
 其の四

「さて蔦とも話せたし、見つからないように帰るぞ。……時宗丸?」
政宗の声に応えがない。
「時宗丸様?」
蔦もあたりに目を向ける。
「お城へ先に向かわれたのでしょうか」
「いやアイツは勝手に動く奴じゃねえ」
「……」
蔦が思案顔になる。それから、茶屋の店先に立てかけてある背丈よりやや長めの棒に目をやった。そして店の中へと声をかける。
「小父さん、これもらっていいかしら」
「は?まあただの棒っきれだから、構わんが」
「ありがとう」
蔦は棒を握った。握りを確かめるような一瞬の動きに、政宗もその傍らにあった短い棒を取り上げる。
「これももらうぞ」
と政宗が言えば、蔦がそれを制する。
「若君はお城へ」
そういう言う蔦に政宗は首を振る。
「あいつを連れてきたのは俺だ。そういうわけにはいかねぇ。……城下は危険だと言ってたが、人攫いでもでたのか?」
「……」
「bingo、か」
「付いていらっしゃるなら、離れないでくださいまし」
「ああ」
蔦は言って、一本の路地を選んだ。


時宗丸は口元を押さえられ、屈強で汗臭い男たちに運ばれていた。
――ありゃ、どうしよう。
混乱するわけでもなくどこかのんびりと考えてしまう。茶屋の店先にいたところひょいと後ろから抱え込まれてしまってはどうしようもない。
――真昼間から人攫いが出るなんて、治安悪いなぁ。
数は三人。隙を見れば逃げれるだろう。時宗丸がそう算段した時だった。
「お待ちなさい!」
路地に女の声が響いた。ぴたり、と男たちが止まる。
「その子を放しなさい」
男が振り返ったので時宗丸も当然そちらを向くことになった。蔦が棒きれを薙刀のように構え、政宗がそれより短い棒を中段に構えている。


「……で、次どうすんだ」
政宗が小声で聞く。さすがに女一人と元服したとはい十一の自分で男どもを倒すのは無理というものだ。
「隙を作れば、時宗丸様は逃げられますね?」
「たぶん、な。あれでも武人の子だからな」
「ではすぐに三十六計」
「逃げるに如かず。all right」
二人は同時に地を蹴った。
戦力は分散させず、二人同時に時宗丸を抱える男を狙った。男がギョッと身をよじる。同時に、時宗丸が自分の口をふさいでいた手にかみつく。男が悲鳴を上げると、蔦は男の頭を、政宗は胴を打った。反射的に男は三つの痛みに時宗丸を手放した。時宗丸は猫のようにしなやかに地面に着地する。
「走るぞ!」
政宗の一言に、三人は一斉に身をひるがえした。
「蔦、先行け!」
政宗は振り返りつつ走る。だが蔦は殿を務めるかのように前に出ない。政宗はそれ以上言わず、走ることに集中する。いつの間にか時宗丸が並んでいて、やっぱこいつの運動能力半端ねぇ、と思った時だった。
後ろで、人の倒れる音がした。

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