悪ガキども嫁を見に行く
 其の三

遭遇から認識までが速やかで、伊達の若君とその従弟に遭遇しても、どこか泰然としていて慌てるでもなく媚びるでもない。そして二人を道理に正しく城に帰そうとする。しかもただ帰れというのではなく送っていくと言い、歩くときは三歩と言わないまでも二人が視界に入るように後ろを歩く。
政宗は蔦を観察していた。成程小十郎が気にいるわけだ、と合点がいった。おそらく彼女なら烈女・喜多とも上手くやっていくだろう。政宗が納得と安堵をしていると、腹の鳴る音が傍らから聞こえた。
「……時宗丸」
「あー……お茶の時間、もう終わってるよねぇ。守らなかったら喜多なーんにもくれないよ」
言われて政宗も空腹を思い出した。喜多はそこら辺は厳しいのである。厨にでも忍び込むか、と思ったところで蔦から意外な提案がなされた。
「少しそれたところに茶屋がございますよ。少しだけなら、仕方ありません」
その言葉にがばと二人が振り返る。
「ホント!?」
「ええ、でも食べ終わったらすぐに」
お帰りになってくださいね、との蔦の言葉を背に二人は示された方向に走り出した。茶屋につくと、顔を出した主人が客に向けるのとは少し異なる笑みを蔦に向けた。
「蔦ちゃん、嫁ぐんだってねぇ。おめでとう」
「ありがとうございます」
どうやら知り合いらしく二人は言葉を交わしている。その間、政宗と時宗丸は行儀よく待っていた。
「おや、弟さんかと思ったら違うようだね」
妙に行儀のよい二人に気付いた店主が言う。蔦は笑って言った。
「遠縁の子で」
どうやら機転も利くようだ、受け答えも早い、と政宗は感心する。
「そうか、遠縁か。うちの団子は美味いよ。ちょっと待ってておくれ」
言うなり店主は店の奥へ消えた。


そして蔦をはさんで政宗と時宗丸の三人は並んで座った。
「蔦は小十郎のどこら辺が気にいったんだ?」
「え、片倉様ですか?」
「なんだよ、まだ『片倉様』呼びかよ。つまんねぇなぁ」
そんな政宗に、蔦は真面目くさって言った。
「祝言までは片倉様、です。そうですねぇ……」
続けて蔦が顎に手を添えたので、政宗と時宗丸は身を乗り出した。うーん、と蔦が唸る。
「お野菜の話ができたことでしょうか」
「……は?」
少年たちがとたんに間抜けな顔になる。
「今までの方は、和歌とか、私の着物の話ばかりで。和歌も嫌いではありませんが、お野菜と比べればお野菜の方が好きです」
「……そ、そうか」
なんとか答えた政宗の横で、時宗丸はあんぐりと口を開けている。
「ええ」
にっこりと笑う蔦に――参考にはならなさそうだな、と政宗は苦笑する。そんな間に団子が出てきて、三人は取り留めもなく話をした。茶は少し濃かったが、団子は店主の言うとおり美味かった。勘定の段になって、蔦が懐から財布を取り出そうとするのを政宗は制した。
「Wait.ここは俺がもつ」
「ですが……」
「女に払わせちゃ男が廃るってもんだ。おっと時宗丸、お前は自分で払えよ」
「えーっ」
「お前はprideってもんがないのか?」
「ぷらいどは知らないけど、オレ銭持ってないもん。っていうか年下にも奢ってよ〜」
「そもそも持ってねーのかよ……しゃーねーなー」
だって茶屋によるなんて思ってなかったし……とブツブツ言う時宗丸の分も店主に差し出す。釣りはいらねぇ、とカッコつけると店主が苦笑いした。店を出ると、蔦が「ごちそうさまでした」と深々と頭を下げる。
「小十郎の嫁さんになるんだ、団子くらい安いぜ。アイツはworkaholicだからな」
苦労するぜ、と続ければ蔦は笑う。その笑みに、なぜかこの人なら大丈夫と思う政宗であった。

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