悪ガキども嫁を見に行く
 其の一

「なー、梵、小十郎なんか最近おかしくない?」
未だ元服を迎えていない一つ年下の従弟で伊達実元の嫡男・時宗丸がそう言ったのは、午後の茶の時間まではまだ間があるころだった。
「梵じゃねぇ、政宗だ」
「え〜梵は梵じゃん?“まさむね”って二文字多いし面倒くさいよ」
「お前なぁ」
予想以上の従弟の無精ぶりに政宗は呆れてみせる。
「そんなことより小十郎だよ」
「Ah,変だって?」
「なんていうか、ぼーっとしてること多いし、前より小言減ったし、たまににやついてるし変。……っていうかちょっと気色悪い?」
小十郎とは少々縁遠かった形容の仕方に政宗はぶっと吹きだした。
「笑うとこじゃないでしょ。なんか変な病気だったらどうすんだよ」
とはいうものの、時宗丸の方もやや真剣味が足りない。
「まー病気っていったらそうかもなー」
「まじで?!」
冗談めかして言った政宗の言葉に時宗丸が青ざめる。その様子にゲラゲラ笑って政宗は続けた。
「なんつーの、恋の病ってやつ?」
「は?こい?庭の鯉でも生け作りにしてあたった?」
「バーカ、惚れた腫れたのほうだよ」
「えっ……」
時宗丸にとっては恋、のほうが小十郎と結びつかなかったらしい。
「見合いしたんだよ、小十郎。祝言あげるそうだ」
「えーお嫁さん?!めでたいじゃん!あー、心配して損した」
時宗丸は息をついた。
「実元の叔父貴のとこにも話はいってるはずだぞ」
政宗が指摘すると、時宗丸は腕を組んで首をかしげた。
「そういえば、母上と父上がそんな話してたかな。オレ、飯食ってたからわかんねー」
だめだこりゃ、と政宗は天を仰いだ。そんな従兄にめげず、時宗丸はずいと政宗に顔を近づけた。
「ね、美人なの?」
問われて、政宗は気づいた。
「そういや、会ったことねぇな」
すると時宗丸はがっかりしたようだった。
「なんだぁ。でもあの小十郎がにやける女の人ってどんなだろうね」
「あー大町の検断職の娘だっつーのは聞いた。矢内重定の娘だと」
「知らない」
「だろうな」
政宗はうーん、と重定の顔を思い出した。
「親父はまぁ、フツーだな。アレの娘となると、やっぱフツーなんじゃねぇの」
「でもそれって梵の想像だろ。すげー美人かもよ。あ、でも小十郎が惚れるくらいだからものすごい大女だったりして。んで、喜多より強いの」
「そりゃ……おっかねぇな」
想像して二人で身ぶるいして、無駄に青ざめる。
ぞくりとしたものが収まった後、政宗はしばし思案した。そして悪だくみを思いついたような顔になる。
「……見に行くか?」
「え。……うん」
政宗の提案に少し驚いて見せた後、時宗丸も従兄と揃いの顔をした。
「よし、こっそり行って帰ってくるぞ。いつものところで待ち合わせだ。誰にも見つかんなよ」
「わかった」
かくして本日も脱走常習犯二人組は、手習いも稽古もほっぽり出して本日も悪びれることなく脱走を決めたのだった。

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