気付かれない程度に、一度。
目が合ってしまわないように、一度。

いつの間にか意識しなくても先輩の事を目で追ってしまっていて、友達におーいと声をかけられる。は、と我に返って彼女の顔を見てみると案の定頬を緩めた姿が目に入った。

「ほんと、紫織って井上先輩好きだよね」
「な、何を……っ!」
「とぼけなくて良いよ、紫織の先輩好きは有名だから」
「ううう嘘っ!?」
「バカみたいに毎日先輩の事見てたら誰でも気付くってば」


…私、そんなに先輩の事見てるんだろうか。それに、周りの思いとか考えた事もなかった。どうしよう。もしかしたら、先輩は私が見ている事を知ってるかもしれない。もしそうなら、私凄くストーカーみたいじゃないか。やばい、ピンチだ。


「あ、紫織、先輩がこっち見てるよ」
「えっ」

そんな事を思って焦っているのに、気持ちだけはやけに素直ですぐに反応してしまう。友達の言葉に耳を立てて近寄れば、一階からこちらを見上げている先輩が目に入った。

「紫織ちゃん」

私を見つけると笑って手を振る先輩の姿にカッと顔が熱くなる。もしかすると私の気持ちを知っているかもしれないのに、先輩はこんなにも優しい。その事に私の心はより一層先輩へと引き寄せられた。慌てて、はにかんで手を振り返す。

それでもやっぱり、長い間先輩と目を合わせているのはダメなようで。
心臓が狂ったように波打ち、口から出てしまいそうになる。あぁもう、私ってホント先輩の事好きすぎるなあと自分自身に苦笑して、お友達の元へ走り去る先輩の姿を目で追った。





見つめるのは良いけど、目が合うのはだめ

(今はまだ一方的で十分です。)

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