「じゃあ二人前に出ろ。
 次の委員会までにクラスでひとつ文化祭のテーマ案提出だから決めるぞ」
「了解、っと。行こうぜ名字」
「あ、うん!」


なんだか不思議。
中学から同じ環境でも最近まで喋らなかったというのに。今ではこうして名前を呼ばれて、一緒に黒板の前に立とうとしてる。
ふと目に映ったウィンクをしてる鶴ちゃんに親指をグッと立てておいた。



「よし、じゃあいきなりなんだがこれがいいとかとかあるか?」
「あ、私黒板書くね」
『… … …』


私が黒板前でチョークを持って待機しても誰も意見を出さなかった。
本当にいきなりだったもんね。困った顔をしてこちらを見る長曾我部くんに苦笑を返すしか私には術がなかった。


「じゃあこんな雰囲気で文化祭やりたいとかないかな?
 たぶん私たち高二って文化祭全力で楽しめるの最後だと思うんだ…」


静まった中話すというのは少なくはないけれど少なからず緊張がついてくる。


「…名字の言うとおりだ、おめぇら来年受験だろ。
 今ちゃんと出してなかったら後悔するな」
「だってよ、高ニの学生生活はもう帰ってこねえんだぜ。
 ほらただのどんちゃん騒ぎだって意味がなけりゃ虚しいだろ」



私の一言に二人の言葉が加わってクラスの人たちの他人事だという顔が変わってくる。
すると、そんな中伊達くんが勢いよく手を上げた。


「じゃあ最後まで全員が楽しむってのはどうだ?
 王道かもしれねぇが大事なことだろ」
「確かになもっともなことだ」
「うん、私もそう思う」


全員で楽しむということは全員が文化祭を創るということになる。誰かに任せることもなく、誰かに任されることもなく生徒ひとりひとりが文化祭を創っていく。最初で最後の高ニの文化祭。来年は楽しむ余裕なんてあんまりないから私としてはこの案にとても納得がいった。



「きどぅな!」


唐突だった。いきなり何かわからない言葉が教室に響いた。


「しまった、噛んだ。
 すまんな、言い直させてもらう…絆!」


たしか普段から騒ぎごとを見つけたら『絆』を合言葉に意地でも仲直りさせようとするいい人、徳川くん。私としてはそんな印象しかないのだけれど。でも、私が聞く徳川くんの言葉っていつも『絆』だから仕方ない。



「まあ理由を聞こうじゃねぇか家康」
「ああ!さっき独眼竜が言った、最後まで全員が楽しむ…それは全員の心がひとつにならなければ難しいことだろう。
 そしてその全員の心を繋ぐもの、それが絆だ!!」


徳川くんの意見にほとんどの生徒が頷いた。一部…もとい、第一声を上げた伊達くん、徳川くんに理由を聞いた長曾我部くんはどこか呆れたような顔をして笑っているけれど。



「家康らしいっちゃ、家康らしいよな」
「うん。どうする、みんな納得してるみたいだけど?」


みんなが口々に話している間、こっそりと前で長曾我部くんと話す。たぶん、このままだと考えなくても『絆』になる。


「じゃあこれで決めちまうか?」
「そうだね、徳川くんの『絆』で行こう」



仕方ねえなと相変わらず苦笑が止まらないままに、長曾我部くんがまっすぐ立つ。


「…よっしゃ、お前ら聞け!!
 このクラスのテーマ案は『絆』として提出する」
『はーい!』


元気よく答えるクラスメイトの中で徳川くんがすごくいい笑顔をしていた。そして、私の横では長曾我部くんが苦笑、あと私が黒板前で待機したのに綺麗なままの黒板。その状況が私にはおかしく感じて笑ってしまった。


「どうした?」
「ううん、なんでもないよ」
「そうか、ならいいけど。まあ、とりあえずこれから文化祭までよろしくな」
「私こそ頼りない奴だけどよろしくね」


立候補したのはいいものの、よく考えたら私本当頼りがいなんてなくて今更に長曾我部くんに申し訳なく思ったり。でも、もう委員から降りれない。頼りないなんて言っていられない。せめて頑張るからと一言だけでも…。



「あの、頑張るから―」
「んなことねえって、さっきも案出たの名字の一言あってからこそだっての。俺ひとりだったら出なかったしありがとな。
 期待してるぜ?」


不安になった心に好きな人の言葉、笑顔なんて効くなんてどころじゃなくて…。





どうしよう、絶対顔熱い。
好きだと自覚してからの長曾我部くんの存在は私が思ったよりもずっとずっと大きかったらしい。


文化祭が終わるまでの期間。私が準備しなきゃいけないのはさっきみたいな小さな勇気では足りない…大きな勇気だった。



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