「ふざけんな、馬鹿野郎!!」







 元就がわざと仕出かした罠にまんまとはまった元親は強引に名前に抱きついては元就の所に行かせまいとする。
 そのときの名前の心境はというと、正に”分かっていない”が相応しかった。………いや、何が起きて今何をされたのかを瞬時に理解できなかったのだ。
 それをされているのに気付いたのは、しばらく元親が元就に威嚇してた間。その時に自分に取り付いている手を見て、首を少しだけ後ろにやると好いているその人がおり、その時に理解した。顔を元に戻せば元親がまだ抱きついていると気付き、慌てて離す。







「わ、わりぃ……」







 名前は言葉は出ずとも首を勢いよく横に振って赤面を隠しきれずに合図をした。
 そんな2人をみて面白くないと舌打ちしたのは目の前にいる元就だった。








 次の日───



 この日の文化祭準備の話は看板のデザインと店の当番決めだ。
 当番決めは先程の6時限目で決まった。作る人・応対する人を分け、計4名ずつで1時間半交代でクラス全員に渡るようにしたのだ。
 デザインは予め看板デザイン専用にコピーされた紙をクラス全員に渡しており、今日それを回収をして文化委員2人が決めるのだ。


 そんな2人の放課後───








「……………」
「……………」







 学校が始まって3日目。演劇部のように初めから始まる部活もあれば、今日から始まる部活もある。学校全体が段々といつも通りに戻っていき、よく目立つ運動部の掛け声と吹奏楽の音色。
 そんな中、2人はクラス部屋で黙々とデザインを見て自分たちが気に入ったものを選んでいく。空気は何だか重々しく感じた。昨日の今日で少し話しかけづらいのだろう。
 そんな2人を影で見ていた人が同じクラスの意外な2人。







「何で元就さんがいるんですか?」
「小娘には関係なかろう。貴様こそここで何しておる」
「私は名前ちゃんの様子を見てるだけですが………何だか重々しいです……」







 毛利元就と鶴姫であった。
 鶴姫は名前が朝から何故か元親と話さずにおり、鶴姫がわざと元親に話をふっかけても反応が酷く悪かった。何かあったのかと気になり、様子を見に来たのだ。
 その元凶の人が目の前にいるなど、鶴姫には分かるまい。

 そんな中、名前がそんな空気の中元親に話しかけた。







「長曾我部くん、良いデザイン見つけた?」
「え、あぁ。どれがいいか悩むな。案外皆デザイン良くて結構ビックリしたっつーか」
「だよねぇ。長曾我部くんはどれがいいと思った?」
「あー……えっとな、これとこれと───」







 先程の沈黙した空気と打って変わり、やっと重々しく感じた空気はなくなった。が、やはり何処かぎこちなさが見えたのは外から見る2人でもよく分かった。一番ぎこちない雰囲気を出してるのは元親の方だった。






「もうっ、海賊さんはどうしてあんなにぎこちないのですか!」
「ただのヘタレであった。それだけのことぞ」
「それ、どういう意味ですか?」






 鶴姫が小首を傾げて聞くものの、元就は無視をする。






「──んー、大分絞ったけど……」
「更に決めるとなるとむずいな」
「そうだねぇ」






 お互いに笑ってまたイラストの方に目を向ける。何とも時間がかかる作業だ、と元親は思うものの反面嬉しかったりした。が、それが何かは未だに分かっていない。
 名前の方を見れば真剣な顔をしてイラストと見つめており、それをしばらく何となく見ていた。すると名前が気付いて「どうしたの?」とにこりと笑って元親に声をかけた。元親は咄嗟に何でもない、と答えながらも顔を隠すように下を向いた。






「(何してんだ、俺は………これじゃあ変態じゃねぇか…)」
「長曾我部くん?」
「っ!……あっ、決まったか?俺は決めたぜ」
「あ、うん。私も決めたよー」






 元就と鶴姫は元親が下を向いたときに顔を赤くしてたのを見て、これはもうすぐ落ちる、と同じことを思っていた。
 さっさと気付け阿呆め、と元就が思ってる矢先鶴姫は、宵闇の羽の方と私もああなったら、と妄想していた。






「じゃあよ、どれがいいか指さしで決めようぜ」
「あ、それいいね!いいよ、じゃあいっせーのーで、で指さしね」
「分かった」






 いっせーのーで、と名前が言えば2人は気に入った絵を指を指した。すると不思議なことにお互いが複数の絵の中から同じ一枚の絵を指さしていた。
 お互いが「あ」と声を漏らして互いを見れば、思わず笑ってしまった。まさか同じ物を選ぶとは到底思っていなかったからだ。
 元就と鶴姫はそれを見て何か安心を得たのか、2人の元から去っていったのだった。






「まさか同じのを選ぶとはな」
「びっくりだよね」
「だよな、ははっ。とりあえずこの絵に決まったから先生に渡してくるわ。 明日からクラスでも作業が始まるから大変になるだろうな」
「そうだろうねぇ。でも楽しみだね」
「だな」






 そういって2人は荷物を持って教室から出ていき、元親は職員室に、名前はイラストを元親に預けて部活のほうに行ったのだった。

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