「さて今日から文化祭のこと、クラスのもいろいろと決めていかなきゃならねえからな」
『おー!!』

そうか、もう夏休みも明けちまったんだもんな。そろそろ動き出さなきゃならわねえわけだ。クラスでも盛り上がりが見える。
とは言っても、クラスの中でもう既に俺は…いや、正しくは俺と名字は、か。俺と名字は文化祭に向けて動いてきたわけだから盛り上がるのも今更なわけで。盛り上がりに関しては傍観者の方にまわっていた。

名字の方を見てみるが俺と一緒のようで。だけど、やっぱりクラスが盛り上がってるのはいいもので目を合わせて笑いあった。


「じゃあ長曾我部と名字、前出て決めろ」
「あ、はい…じゃあ行こっか、長曾我部くん」
「おう」


そういや、テーマ決めた時にもこんなやり取りあったな。でも、今とは逆か。
二人並んで前出ると、この前のように名字が黒板の前でチョークを持とうとする。

だけどよく考えたらこの前テーマが出たのは名字のおかげなんだよな。こいつがいるからちゃんとクラスの話し合いが進んだ。
まず黒板に書く事なんて限られているだろうし、やっぱり個人的に名字が隣にいてくれた方が頼もしいというか…何ていうんだろうな。別に俺自身不安がっているわけでないから頼るためではないが、隣にいて欲しいと思う感じ。
感情がどういったものなのかわからないまま、チョークを持とうとする寸前の右手を引っ張って隣に立たせた。


「長曾我部くん?」
「えっと、あー…あれだ、ずっと待機する必要もないだろうし。まだ大丈夫だろ」


ああ、もう。
ただの馬鹿の回答だろ、これ。しかも、クラス全員の前で手握って引っ張って…何してんだ俺!


「と、とりあえずだな。文化祭じゃ食販やらお化け屋敷やらいろいろできるが何かしたいものがあるやついるか?」


名字のこと、今まで喋ってなかった分全然意識なんてしてなかったのに。どうしてか、今顔が熱くなってる…気がする。
これが残暑か、その他なんてわからない。いや、今は考えたくねえぐらいだ。

強引に話を進めれば、名字も納得したのか、俺の隣に立つ。


「ここは…coolにたこ焼きか、焼きそばだろ!!」


伊達に言わせてみせればもう熱いものでもCOOlとか言い出すんだろうなと思いながらも、適当に相槌を打ってポケットに入っていた白紙に『粉物』と書いた。


「長曾我部くんいつの間に持ってきてたの?」
「ん、ああ、これか。まあこっちの方が書くのも早いし、な?」
「うん、そうだね。頭いいやり方だよ」


ああ、まただ。何気なく笑った名字に柄にもなく目を合わせられなくなる。


「んなことねえよ。…っし、じゃあ他は?」
「絆の力で天ぷらだ!」
「他」
「元親!どうしてワシの意見をスルーする!?」
「ちゃんと書いてっから。天ぷら食べたいだけで、天ぷらと絆の関係性生み出してるやつの意見だって書いてっから」
「…元親が意地悪だ」


いじけだす家康にクラス中が笑いながらも、次の瞬間その笑いが静まるほどに存在感の持った声が聴こえる。



「フン…貴様ら何を言っている、ベビーカステラで決まっておるだろう」



一瞬立ち上がった毛利が何を言いだしたのか理解できなかった。でも確かに『ベビーカステラ』と言ったようで、動きが一時停止してしまった俺の腕をつついて名字が「ベビーカステラだって」と耳打ちする。
その声で我に返り、言われた通りに書く。


「じゃあ一意見として置いておいてだな、次」
「何を言っておる長曾我部、ベビーカステラ以外何をすると言うのだ」
「いいから毛利は黙れ!」
「ならば全員にベビーカステラを納得させれば良かろう」


何を言っているんだ、と。再び一時停止しそうになる。しかし、当の本人はいたって正気らしい。


「ベビーカステラとは、ホットケーキ・カステラのような生地を球状に焼いたものであり、いわゆる粉ものの一種ぞ。専用の…」


とうとうベビーカステラの作り方、おいしさ、歴史、その他もろもろ…と語りだした。終いには毛利の家に専用の機械もあって予算も浮くということで自動的にベビーカステラに決まってしまった。


「ははっ、本当にあいつは仕方ねえな」
「でも毛利くんの話聞いてる限りではすごく楽しそうだし、おいしそうだよね」


苦笑しながらも俺の紙に書いてある『ベビーカステラ』に赤丸をつける名字。納得しながらも、終わったと片倉先生に合図を送る俺。


「じゃあ二人共座っていいぞ。昼休みにでも毛利にいろいろ聞いてこの紙書いとけ、どうせすぐに提出だからな」


そう言って一枚の紙を押し付けられた。どうやら必要なものとか、どの場所が希望かとか書いて生徒会に提出するものらしい。


「名字昼休み空いてっか?毛利は絶対暇だろ」
「うん、私は大丈夫」
「…まあ否定はせぬが」
「じゃあ三人で昼喰いながら紙書こうぜ」


そう言った瞬間に終業のチャイムが鳴る。いいタイミングだ、そう思いながら二人の近くの机を持ってきてくっつける。


「ごめん、私お弁当持ってきてないからパン買ってくるね。先進めてもらってもいいかな?」
「おう、こいつと二人とは不本意だが待ってからよ。行ってこい」


軽く手を振り、既に座っている毛利と向かい合わせに座る。


「で、いろいろと必要なもん出して最終的には必要予算も出してもらいてえもんなんだが。ま、あんたならできるだろうしな」
「その紙を埋めるのにそう時間はかからぬ。………で、いつから貴様は乙女になっておる。気持ち悪いわ」
「は!?」


毛利から出る言葉なんて理屈とか正論とか、そういうイライラするものばかりだと思っていた。だが今出た言葉は『乙女』だとか、そんな人間味のある言葉だ。


「いろいろつっこみたいし、驚いてんだが。それはどういう意味だ。笑わせんな」
「あ、名字が帰って」
「え……って、いねえじゃねえか!」


毛利の言葉に反応しても、見えない名字の姿。わかりやすくからかわれた。


「貴様は本当にわかりやすい。例えばさっきのこともそうだ。全員が注目してる中名字の手を取ったり」
「それは体が勝手に動いたからだ」
「ほお…体のせいにするか」
「無意識なのは仕方ねえだろ、というか前にもそういうことあったが名字も気にしてみてえだし…思えば頭撫でた時も何もなかった―」


俺さっきから毛利相手に何グチグチ言ってんだ!
だが時は遅しなのか、毛利の方を見れば嫌な笑いをしている。というか、久々に見る笑い方だがこの笑い方をする時決まっていいことは何もない。


「別に変に手出してるわけじゃねえぞ?」
「そんなものはわかっておる」
「え…違うのか?」
「まあ我の仁は天のごとし。一言言ってやる、ありがたく受け取れ。
 さっさと自分の気持ちに気付け、認めよ」


今日は毛利の言うことをよく理解できない。言ってしまえば理解できないからありがたさもわからないわけで。ちゃんと意味を聞こうとしたわけだがちょうど名字が帰ってきてその話は終わりだ、とはぐらかされた。


「名字来い」
「毛利くん?」
「いいから、我の膝に」

さっきの俺の如く、毛利は名字の手を引く。だが目的が違う。完全にこいつは意図して、しかも自分の膝に座らせようとしている。


「ふざけんな、馬鹿野郎!!」


慌てて毛利から守ろうと名字を体の中におさめれば、また毛利が嫌な笑いをする。
これは知らないあいだに弱みを握られてちまったのか…。ため息をついた瞬間にまだ名字を抱きしめたままだと気付き、慌てて離した。





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