夏休みが明けて、日はすっかり2学期の始業式になっていた。何だかんだで名前と元親にとっては色んな意味で忙しい夏休みだったと2人は違う場所で同じことを考えていた。
 ………いや、名前にとってはそれ以前から忙しかったのかも知れない。


 さて、2学期の始めということで恒例の朝会。そしてクラスの部屋に戻れば担任から今学期の話やら何やらと話が綴られる。
 そんな中に今学期の第一行事、文化祭の話がされた。






「今年もお前らが楽しみにしてる行事イベントの一つ、文化祭が始まる。クラスの出し物は明日決めるが、準備設営の2人は今日からまた準備が始まる。遅れるなよ、長曾我部」
「あいでっ」






 元親がボーッとしていたことに気付いて、話しながら徐々に近付くが一向に直らないため、片倉先生は出席簿で軽く元親の頭をこついた。
 軽くと言っても、それなりの硬さがあるためやはり痛かったのか、元親は反射的に声が出た。それを見て少しばかりクラスの皆が笑った。




‥‥その放課後‥‥





 2学期始めの日はお昼前に終わり、準備設営の人たちはそのまま文化祭の準備のためお昼を適当に取った後、作業をする教室に向かった。元親と名前も例外ではない。
 今回の準備は売店用の看板の土台となるものだ。この看板なしでは売買する際にとても目立たない。更にはこの看板の土台を元に売店をするクラスがデザインをするため、なくてはならないものだ。



 主な看板は2つある。一つはここに店があるよ、と主張する大きい看板。もう一つは誘導するためのもの少し小さめの看板。この二種類がある。各クラスにこの看板を1つずつ配布する。
 今回は前者の主張するための大きめの看板を制作するのだ。







「でけぇなぁ。この看板も作るとは思わなかったぜ」
「俺様も思わなかったよー、準備設営ってこんな苦労をしてたんだね」
「無駄口叩いてないで手を動かせ」
「はいはーい、かすがちゃんの為なら動かしちゃいますよー!」
「名前、ガムテープ取ってくれ。佐助の口を閉じさせる」
「えぇ!?なんで!?」







 むしろ喜んでほしいんだけど!と佐助が言うと、更に殺気立った気迫をかすがは出し、素直に名前が渡したガムテープを引っ張って威嚇した。
 名前のまさかの行動に一番驚いたのは元親だった。どうしたものかと名前の顔を覗き見ると、少し浮かない顔をしているように見えた。そこで元親は声をかけてみることにした。






「名字どうした?」
「……えっ、あっ、長曾我部くんなに?」
「いや、それはこっちの台詞だ。普通にガムテープ渡しちまうし、浮かねぇ顔してよ」
「ガムテープ?何のこと?」






 元親の目は大きく見開いた。まさかと思い、もう一度聞く。






「さっきかすがが猿飛の口封じるためにガムテープ取ってくれって言って素直にそこにあるガムテープを渡したじゃねぇか」
「え?……あれ、そういえばガムテープどこに…」
「そのガムテープはかすがの手にある…」
「……………えぇ!?」






 元親の予想は当たり、どうやら無意識の内にやってしまったらしい。その証拠に渡した本人が一番驚いて大きな声を出して、思わず元親は苦笑をこぼす。
 そんな中、名前を呼ぶ1人の声が聞こえた。







「名前ちゃーん!」
「あれ?鶴ちゃん、どうしたの?」






 名前を呼ばれて立ち上がり、鶴姫の元に駆け寄った後ろ姿を元親は目で追いかけて見れば、更に後ろに人影がいた。






「あれ、孫市ちゃんも?……もしかして部活?」
「あぁ、その通りだ。準備設営で忙しいのは分かるが、部活は出てもらうぞ、部長」
「あはは……あれ、でも鶴ちゃんは部活違うよね?」
「私は見学ですー!演劇部の活動は2学期の始めからやってるって孫市姉様から聞いていたので私見たくなって。それにしばらく名前ちゃんと一緒にいれてませんので………」
「ごめんね……見学は別に大丈夫だよ。今日は一緒に帰ろうね」
「はい!」






 何を話しているのかよく分からない元親はただ作業をしながら名前の様子を見ていた。
 しばらくすると名前がまたこちらに戻ってきた。作業をするのかと思いきや、元親の考えとは逆の答えが返ってきた。






「ごめん、今から部活行かなきゃいけなくなっちゃった…」
「え……」
「マジで?あ、名字ちゃんって演劇部だっけ?」
「うん」
「それは仕方ない。部活頑張れ、名前」
「ありがとう、かすがちゃん。猿飛くん。ごめんね、長曾我部くん」
「謝んなよ。部活、がんばれよ」






 そういって元親は立ち上がって名前の頭をくしゃりと撫でた。そうすると名前は笑って教室から出て鶴姫と孫市と共に部室に向かった。
 名前が教室から出た後、元親はしばらく名前が出たドアの方を向き、自分の前髪を荒く掴んだ。






「なんでガッカリすんだよ…意味分かんねぇ……!気にしてねぇなら気にすんなよ……ったく…」






 小声で言っていたが、対決していたかすがと佐助の耳には何故かちゃんと入っていたのだった。





「とうとうきたか?」
「いやいやぁ、これからでしょ。そして俺らもこれから───げふっ」
「私は謙信様だけだ。分かったか」
「……はい」

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