最近はよく名字とあっている気がする。
 いつからだ?……そうだ、あんときの日直から、期末考査のときに一緒になったんだっけか。よく覚えてねぇが、確かそのはず。
 そんで俺が帰ってもいいと言ったのにも関わらず、あいつは最後までのこっててくれた。それが最初だった。

 それからだ、名字とよく遭遇して話してて、それが結構たのしかった。なんつーか、気楽に、普通に楽しめる、そういうやつだと思う。
 強いて言うなれば………そう、ダチ。気のいらない良いダチ。




 俺と名字は同じ中学出身だが、中学のときは話したことはなかった。挨拶もしたかどうか怪しいぐれぇに会話をしてない。
 だからなのか知らねぇが、高校2年で漸く話せるのが嬉しかった。








「最近鬼の旦那、生き生きしてるね」
「そうか?大会が近いからじゃねぇか?」
「それ、普通はプレッシャーがかかって強ばるから……」







 テスト期間が終わった何日かした後の出来事。バスケの自主練をしていると猿飛に声をかけられてそんなことを言われた。そしてこんなことも聞かれた。







「ねぇねぇ、名字さんっていう女子知ってる?」
「あぁ、知ってるが…名字がどうかしたか?」
「その子と何かあったりした?」
「は?……まぁ、テストのときに同じ日直になって話したりしたが、それがどうかしたか?」
「それだけ?」







 コイツ、何が言いてぇんだ?







「それだけだぜ」
「ふーん?ま、いいや」






 猿飛はそのままどこかに行くように俺のいる反対方向に歩いて行った。何が言いたかったのか俺には理解出来なかったが、その時の猿飛は何故かにやけていたことを覚えてる。



 それから幾日過ぎた頃に、バスケの休憩がてらに外に出れば名字が何故か体育館前にいた。声をかければ驚いたような声を出して俺の名前を呼ぶ。
 ふと名字が何か手に持ってたのが見えてそれを覗くと本だった。しかもその本の題名も見えたが、それが「曽根崎心中 台本」と書かれていた。聞けば、今年の文化祭で演劇部がする台本らしい。


 曽根崎心中といえば国語の教科書に載っていたのを思い出す。授業中に現代の言葉で訳すというので調べていったら、すごくドロドロとした内容だった。
 まさに人が人を騙す。だが、その中には甘い《恋愛》もある。その恋愛も悲劇に終わっちまうんだよなぁ、確か。






「(それを今年は演劇部がすんのか……色んな意味ですげぇわ、演劇部の顧問…)」

「長曾我部くんこういうのは苦手?」
「いやどちらかというと嫌いじゃないぜ。そんだけ焦がれた情を持ち合わせてよ、今の俺には理解できねえが永遠誓いてえほど愛したやつってことだろ。ある意味死にたい気持ちを理解したくはねえけどしてみたい……みたいな」






 俺はその後名字から台本を取り、『曽根崎心中』の中で一番記憶に残っている部分を探す。






「(あった……)」






 声に出したくなってそれを声に出してみることにしてみた。






「まりあり、我とても遅れうか、息は一度に引取らん」
《私が遅れてなるものか、だからあなたと共に息を引き取りたい》







 妙な感情が入った、気がする。俺自身全くその気がなかったんだが、何だったんだ?
 ………だけど、やっぱ心中するのは俺はあんま好かねえな。






「………なんてな。なかなか大変だとは思うが頑張れよ」
「長曾我部くんのおかげでちょっとだけだけどイメージ掴めた気がする、ありがとね」
「いや、俺は何もしてねえって。舞台楽しみにしてるな」
「まあまだキャストとかは全然決まってないからどうなるとか言えないんだけど、頑張るから楽しみにしててね」
「あったりめえよ!」







 名字は何の役するんだろうな。………やっぱ、ヒロインか?じゃあ主人公のあの男役は誰が…?
 ……………俺が気にすることじゃねぇな。





 それからも名字と共に作業することは結構あった。準備設営も共にすることになったり、たまたま街道のところで会ったりと、ホント今考えれば不思議な感じだな。

 そして今日も、男子バスケ部の大会に応援しに来てくれてた。


『長曾我部くん応援しにいってもいいかな?』


 あの言葉を思い出して少し笑ってしまった。何だろうな、この感じ。嬉しいことには間違いはねぇな。
 それからこのバスケの試合で勝つか負けるかの賭けをした。負けたら俺が名字たちに奢る。勝ったら名字が逆に俺たちに奢るというもんだ。
 何だよこの賭けは、と自分で問いながらも含み笑いしてしまう。自分でも可笑しな賭けをしたものだと思いつつ、俺は試合に出た。
 結果は……まぁ、当然ながら勝った!結構接戦だった。やっと相手が本領発揮したってことだが、勝った!
 と調子扱いてたら猿飛に「あんま調子乗らない方がいいよー」と言われながら背中を数回叩かれた。分かってるっての。

 それからかすがのすすめでここの近くでやってる祭りがあるらしい。そこで屋台もやってるらしいからそこで奢って貰うことにした。
 猿飛はイカ焼き、かすがはたこ焼き。俺は甘いのが欲しかったためわたあめを頼めば何故か3人して驚いている顔をされ、更には女子扱いされる始末。なんでだよ!!甘いモン食って何が悪いんだよ!
 と、思った矢先に猿飛の叫ぶ声が聞こえた。







「名前悪い!私猿飛のジャージだけは本気で心配だからちょっと体育館で水で洗ってくるから」
「ちょ、俺様の価値ってもしかしてジャージだけなんじゃ」
「すぐに戻るから先行っててくれ」
「…もー、そんなに引っ張らなくてもいいから。じゃ、お二人さん、また後でね〜」






 光の如く、猿飛とかすがは行ってしまった。………アイツ等見てるとホント夫婦にしか見えねぇ……
 俺と名字は残され、2人が頼んだイカ焼きとたこ焼きも名字の手に残った。






「本当あの二人夫婦みてえだよな」
「でもいいよね、あんな風に仲良いのって」
「そうだな、じゃあ俺たちは先行っとくか」
「わたがしもあるしね」






 目的のわたがしも買い、さてこれからどうしようか悩んだときだ。パーンと大きい音が空から鳴った。音の鳴る方に顔を向ければ、花火が上がっていた。






「花火…上まで行ってみようぜ!」
「うん!」






 そう言って俺らは走っていった。だが、名字は疲れてしまったのか途中から走るのが遅くなっていた。
 花火見れなくなる、そう思うと不思議と名字の手を握っていた。あと、アイツ等の荷物も。
 無理矢理走ることになりはするが、俺は名字と見たかった。何となく、そう思ったんだ。


 そう、だからこんなにも丘の上から見る景色は綺麗だと思えたんだ。

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