試合三連勝したのはすごく嬉しいんだけど。


「試合には三連勝できたし、名字には奢ってもらえるしラッキーだぜ今日は」
「ああ、名前には悪いとは思っているが賭けは賭けだ」
「そうそう、もー俺様お腹ぺこぺこ〜」


そう、あの例の賭け。
嬉しい気持ちの後ろでお財布の中のお金とさよならというのが私の中では大きく、複雑な心情になっている。でもかすがちゃんがちょっと嬉しそうなのは見てて微笑ましいというか。



そして、私たち四人でさっそくやってきたのは婆娑羅体育館近くの神社のお祭り。そんなに大きいものではないけれど定番の屋台はしっかりと揃っている。


「お願いだからお手柔らかにお願いします…」
「じゃあ私はたこ焼きで」
「じゃあ俺様いか焼き!」
「んー…俺はやっぱわたがしか」
『…っ!?』


最後の長曾我部くんの「わたがし」発言で一斉に絶句した。本人はわかってないのだろうか、ちょっと不思議に思ってしまうけれどおいといて…。
猿飛くんと並び汗もだいぶかいていて、試合終わりでさぞかしお腹もすいていそうな長曾我部くん。かすがちゃんに猿飛くんと、しっかりお腹に貯まる食べ物からのわたがし。
しかも今遠くに見えている屋台の様子でも子供しか並んでないように見えるし、それに合わせて飾ってある袋も可愛い。
正直なところ、ギャップというものなのか…すごく長曾我部くんが可愛く見えた。




「…正直女子力が負けたきがするぞ」
「…だって、あの人たまに部活に自作のレモンのはちみつ漬け持ってくるしそりゃ」
「おい、俺に聞こえる声で何を言ってる」
『…女子?』
「違えよ!!」


見事な漫才のような会話の流れで今度は私ひとりで笑ってしまった。昼のかすがちゃんと猿飛くんの会話聞いたときも夫婦漫才みたいで面白かったけれど三人になってさらに磨きがかかってる。



「じゃあとりあえず行くか」


なんとか話も一旦落ち着いてかすがちゃんの一言で進むことになって。
ちょうどいか焼き、たこ焼きと並んでおり二人に奢ることになった。まさかいきなりお財布から二人分お金が出ていくとは思いもよらずちょっぴりショックを受けちゃったのはここだけの話である。


「じゃあ次はちょうそ―」


長曾我部くんだね、そう言おうとした時だった。


「あー!!俺様のジャージにいか焼きのソースが!!」
「それは大変だ、すぐに水で洗わなければ残ってしまう!!」


どうやら一口目食べる瞬間に猿飛くんのジャージにソースがついてしまったらしい。二人してジャージの心配をしている。


「名前悪い!私猿飛のジャージだけは本気で心配だからちょっと体育館で水で洗ってくるから」
「ちょ、俺様の価値ってもしかしてジャージだけなんじゃ」
「すぐに戻るから先行っててくれ」
「…もー、そんなに引っ張らなくてもいいから。じゃ、お二人さん、また後でね〜」


かすがちゃんは急いでたこ焼きを袋にしまい、ついでに猿飛くんのいか焼きもしまって二人で体育館の方に戻ってしまった。残された私たち二人はというとお互い笑ってしまった。


「本当あの二人夫婦みてえだよな」
「でもいいよね、あんな風に仲良いのって」
「そうだな、じゃあ俺たちは先行っとくか」
「わたがしもあるしね」




そう言って普通な顔して長曾我部くんと並んで神社の階段を歩いて行ったんだけれども。しばらく経って自分の状態に気づく。

好きな長曾我部くんと。

お祭りで。

二人きり。



「え!?」
「へ?」
「い、いや、何でもない」


自分の状態、つまり長曾我部くんと二人きりと気づいたときには驚きの声が出てしまい、長曾我部くんには不思議そうな顔されて、何でもないと言えば笑われてしまい…。
ああ、私にもう少し可愛げがあれば…なんて思いつつも、驚いたこと自体に可愛げあっても仕方ないと開き直る。


「あ、わたがし」
「え、あった?じゃあ買おっか」
「なんか応援まで来てもらってんのに悪いな」
「いやいや、賭け負けたの私だし…じゃあお祝いってことで」


わたがし屋のおじさんに300円を払い、一応袋に入ったものではなく棒付きの大きなわたがしを長曾我部くんに手渡す。


「じゃあ俺からも奢ってもらった身だが…お礼ってことで」


するとそう言って長曾我部くんの持っているわたがしが私の口に突っ込まれた。


「名字も今日は応援お疲れさん!
 疲れた体に甘いもんはいいだろ?」
「長曾我部くん…確かにいいものだけど」
「うん、やっぱ甘えな」


そのまま私の口に突っ込まれたわたがしを食べる長曾我部くんなんだけど。これは期待をしてもいいのか、それとももう私が間接キスだとも思われない対象になっているのか。

でも、どちらにせよ顔が熱い。


「あ、あの、長曾我部くん!」
「ん?」


勇気を出して、その本意だけは聞こうとしたその時、後ろでパーンパーンと大きな音がした。
思わず振り返ってみれば花火の一部が見えた。


「花火…上まで行ってみようぜ!」
「うん!」


私と同じように一部だけ見えたことにもどかしさを感じたのか、二人並んで小走りで走る。
それでもやっぱり神社の階段は長く、スタミナの差が表れる。これはもう並べないとは覚悟することになった。だけど、長曾我部くんが持っていたわたがしを口に咥えたところから覚悟は粉砕された。

長曾我部くんがわたがしを咥え、空いた手で私の荷物を強引に取って…さらにはもうひとつの空いた手で私の片手を握った。
もうさっきまで可愛いと思ってた長曾我部くんはかっこいい長曾我部くんになった。
それもさっき質問して流れちゃったのも忘れてしまうぐらいに。

…覚悟と、ついでに私の走った分の疲れまで粉砕されることとなった。


「ふう、間に合った」
「あ、ごめん荷物」
「いいってことよ!」


なんとか間に合い、いろんな意味で高鳴る心臓の音を聴きながら夜空に上がる花火を見る。



「きれい…」
「ああ、本当な…」


澄み渡る蒼に、真っ赤に燃える紅。
神秘的な紫に、優しく淡い翠。



立派に夜空にきらきらと輝く花火。


まるで長曾我部くんといるこの時間、そのものだ。
いつだってきらきらしてて、ドキドキして。

いつか花火のように。
燃えて、大輪を咲かす…そんな恋になったらいいな。



未だ離れることのない手を力を込めて握り、そっと祈った。





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