婆娑羅体育館についたのは10:55。
試合が始まるのは11:00。
本当にぎりぎりだった。
「名前、ここだ!」
「かすがちゃん!」
一番前に座るかすがちゃんを見つけて、急いでベンチへ向かう。
思えば小学生みたいに眠れず寝坊して走って、さらに走って朝からずっと走りっぱなしだ。
おかげで今は汗だく。
既に私は試合を終えた選手ぐらいかいてるんじゃないだろうか。
息をきらせながら汗をふく私を見て笑うかすがちゃんに私が苦笑する。
ああ、本当に大失敗。
汗だく。
しかも差し入れにと思って持ってきたスポーツドリンクも時間がぎりぎりだったせいで渡せじまい。
「落ち着いてきたか?」
「うん、なんとか。
シャツはびちゃびちゃだけどね」
「そういや大荷物だがまさか差し入れ部員全員分持ってきたのか?」
「うん。だって長曾我部くんだけの試合ならまだしも、これはバスケ部の試合だもん。
でも試合終わって配る時にかすがちゃんにも手伝ってもらっていいかな?」
「ああ、勿論だ」
ピーと試合開始1分前の合図である笛がなると自然に会話が途切れた。
すると各校の選手が出てくる。
その中に長曾我部君を見つけると嬉しいような、少し緊張するような気分になった。
『試合を、始めます。白 白ゴール 青 青ゴール』
聞き覚えのない台詞を聞きながら手に汗を握る。
『それでは、礼』
真面目な顔をしてお辞儀をする長曾我部くんに、猿飛くん。
普段とのギャップがあって更にかっこいいと思ってしまう。
審判がトスアップをすると同時に長曾我部くんと相手の学校の人が大きくジャンプした。
「お願い…!」
ぎゅっと両手を握りしめて見れば、長曾我部くんがボールに触れ、それを猿飛くんが受け取ったのが見えた。
「やったね!」
「やったが、まだ試合は始まったばっかりだぞ…あ、長曾我部がボール取った」
「長曾我部くん!?」
かすがちゃんから目を離し、コートを見やると長曾我部くんがドリブルをして走っている。
バスケのルールとかそういうのはあまりわからない私でもなんとなく長曾我部くんのプレーはすごいんだってわかる。
「応援しなきゃな」
「うん…!」
さっきまで何人も走り抜く長曾我部くんに圧倒されてた私だけど試合に行きたいと言った日のことを思い出す。
そうだ。
私は応援に来たんだ。
『絶対勝つからしっかり俺の応援頼むぜ?』
そう言われたんだ。
大好きな長曾我部くんに。
しかも、おでこつんとつかれながら。
咳払いして、息を吸う。
いざ、私の気持ちを長曾我部くんへ。
かすがちゃんに親指を立てられて、よしと頷いた。
「よし………長曾我部くん、がんばれー!!」
ちょうどシュートを決めようとする瞬間。
私の声は体育館に響いたけれど、肝心の長曾我部くんに届いただろうか。
宙に弧を描くボール。
今の私はただ入るように祈るしかない。
お願い。
入って。
かすがちゃんとぎゅっと手を繋ぎながら祈る。
すると
ガコンッ
そう音を立ててゴールに入った。
「やったー!!」
「ちゃんと声届いたみたいだな、ほら見てみろ」
かすがちゃんと抱き合って喜びながら長曾我部くんの方を見てみれば、笑顔でこちらに手を振ってくれていた。
これは手を振り返してもいいのか迷ってるとかすがちゃんがあの時のように、私が長曾我部くんに大会見に行きたいって言えなかった時のように背中を軽く叩いてくれた。
「…………ナ、ナイスシュート!!」
口パクだったけれど『ありがとな』そう返してくれた。
それだけで私の気持ちは驚く程に高揚する。
馬鹿みたい、自分でもそう思ってしまうけれど。
それほどに。
私は長曾我部くんのこと好きになってるんだ。
別に付き合っているわけでも、気持ちが通じ合ってるわけでもない。
だけど、すごく嬉しく感じた。
長曾我部くんに声が届いた。
ただそれだけで。