夏休みに入った。初日は部活があった名前だが、その数日後は休みの日があった。
 丁度鶴姫も何もすることがないとメールで言っていたため、外に出て話そうと約束をした。
 そして今、名前は鶴姫と共にとある喫茶店でお茶会をしていた。







「そういえば名前ちゃん。海賊さんの大会って何時なんですか?」
「へ?」
「へ?ではないですよ。応援しに行くんですよね?では日付も聞いているのでは?」







 そう言われて一瞬時が止まったかのように名前は一時停止をし、そして一瞬にして血の気を引いた。







「あーーー!!!」
「えっ!?あ、あの!名前ちゃん、声を抑えてくださいー!」








 すっかり大会の日にちを聞きそびれていた名前の声は喫茶店中に響きわたったのだった。
 しかしどうしたものか。勢いよく元親の大会を応援しに行くと言ったのに、これでは応援どころかその場所・日にちが分からなければ行くことさえ無理である。
 名前は半泣きになりながらどうしよう……どうしよう…と頭の中が破裂しそうなぐらい悩んだ。







「やっちゃいましたね……」
「うー……どうしよう………」
「海賊さんの家は分かります?」






 名前は首を横に振る。






「……鶴ちゃん…………どうしよう…」
「………うーん」







 すると鶴姫は名前の手を取り、顔を上げさせて目を覗くように見た。何をしているのか分からない名前はされるがままに動かされた。
 すると、鶴姫の顔は明るくなり、名前に言う。







「大丈夫ですよ!名前ちゃん」
「…………ふえ?なんで?」







 鶴姫は笑ったまま名前に伝えることなくその話は終わったのだった。

 その日の夕方、名前はトボトボと歩きながらまだ悶々と悩んでいた。いくら友達に大丈夫と言われたと言っても、確信がないわけだ。気晴らしにコンビニに寄るも、やはり気が変わることはなかった。
 しばらく家に着かないようにゆっくりと歩いたことのない道を歩いていると、ガコンという聞いたことのある音を聞いた。






「………あれ?」






 目を疑ったが、そこはバスケが出来る場所にたどり着いていたのだ。そこに1人、私服ではあるが名前が今一番会いたいと思っていた人物がいた。
 汗を拭うためのタオルがない代わりに服の襟元で拭う動作をすると、名前がいたことに気付いて話しかけた。







「お?名字じゃねぇか。何だ?お前さん、ここの近くに住んでんのか?」
「……えっ!あ、うん、そうなの。でもここの通りを通るのは初めてだったかな」
「そうなのか?俺は暇がありゃここにいるから、確かに名字がここに来たことは見たことねぇな」







 そう言いながら元親は、足下に置いている水筒を取って喉を潤した。名前は未だに信じられないと驚きながら、元親を見ていた。
 だが、いつまでも呆気に取られていてはチャンスを逃すと思い、我に返るなり名前は早速大会の日にちを聞こうとした。







「あっ、あの、長曾我部くん──」
「なぁ名前もこっち来いよ」
「あ、うん。…………えぇ!?」







 流れに流された名前だった。


 名前がフェンスの扉から入ってきたときには元親はバスケットボールを軽くドリブルしていた。名前が来たことを確認すると、ドリブルをしていたボールを右手で受け止めて名前の方を見た。
 するとふいに元親はバスケットのゴールを目掛けてボールを投げた。






「あ……」







 ボールはスッポリとゴールの網に入った。元親が立っている所からゴールは名前から見れば結構な距離がある。それを意図も簡単に入れたため、「すごい!!」と思わず拍手をする。







「ここからじゃ何度も練習してきたから簡単になっただけだ」
「それでもすごいよ!私はそんなところからじゃ無理だもん!」
「ははっ、そりゃどうも」







 そう言って元親は左手で名前の頭を豪快に撫でた。おかげで名前の髪は乱れてしまったが、それでも嬉しいと思うのは惚れた弱みなのだろうと頬を赤らめた。







「少し遊ぼうぜ」
「バスケで?」
「おう!先攻は名字な」







 そう言ってボールを渡され、バスケのゲームをした。
 だが、流石はバスケ部。慣れていない名前のボールをあっさり取ってしまい、元親がゴールを手にした。






「もっと腰を低くしてみ?それでドリブルをすんだよ」
「こう?」
「そうそう。そんでそこから動いて──」







 そんな指導を受けたあと、またゲームが開始された。元親の速さに付いていけないものの、それでも楽しかった名前。何度かするうちにコツを掴めてきたのか動きも段々と早くなっていった。
 だが、肝心なものを忘れていることに気が付くことはその間なかったのだった。
 そんなことをして1時間。名前の体力が限界になり、ゲームは幕を閉じた。






「つ、………疲れたぁ……」
「けどなかなかやるな。楽しかったぜ」







 ヘトヘトになって地面にへたり込んだ名前を起きあがらすために元親は手を差しだし、名前は「ありがとう」と言いながら元親の手を取った。
 しかし、やっと一番聞きたいことを思い出したのか………







「あーー!!!」
「ど、どうした?!」






 本日2度目の大声をあげた名前だった。そして、思い出したことを口にする。






「あの!長曾我部くん!」
「お、おう?」
「大会っていつですか!!」







 突然の質問に驚くも元親も「あっ!」と手のひらと拳を作って同時に叩いた。







「来週の土曜日で、時間は11時から。んで、場所は婆沙羅体育館ってとこなんだが、分かるか?つか、行けるか?」
「ちょうどその日は空いてるから大丈夫だったかな。その体育館、聞いたことあるかなぁ…?でも応援しに行くって言ったから行く!」
「あんがとな」






 そう言って笑ってまた名前の頭に手を置いた。







「応援、楽しみにしてるぜ?」
「ふふっ、楽しみにしといて」







 今日は色んなあなたが見れて嬉しかったです、と名前は心の中でそう言ったのだった。

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