「……かすがちゃん」
「ん?」
「ありがとね」
長曾我部くんと猿飛くんには聞こえないように小さくお礼をするとかすがちゃんは自分は何もしていないというようにはにかむ。
そして目が『よし行け』と語り、私は長曾我部くんに向き直った。
すう、と息を吸って自分を落ち着ける。
よし言うんだ。
かすがちゃんがせっかくくれた機会。
絶対に無駄にはできない…!
「あのっ!長曾我部くん」
「ん?」
「長曾我部くん応援しに行っていいかな?」
「………お、おう!応援してくれんならいつでも大歓迎だぜ」
私がいきなり声を勢いよく出したせいで一瞬反応できてない長曾我部くんだったけれど、すぐにいつものような笑顔になった。
ああもう…どうしてこの人はこんなにかっこいいんだろう、輝いているんだろう。
なんだか恥ずかしくなって隣にいたかすがちゃんの方を向いてみればこちらにガッツポーズを向けている。
そして、さらに奥の方を見てみれば鶴ちゃんがガッツポーズを…
「え、嘘!??」
何故か扉の外から覗いている鶴ちゃんが見えた。
それに私が驚いてかすがちゃんもあっけにとられていたがすぐに笑い出す。
「まさかここまで来てるなんて」
「さすがの私でもびっくりした、ちょっと過保護すぎないか?」
「へ?」
「いや、こっちの話だ…悪い、猿飛に話があるから長曾我部と話しといてくれ」
そう言うと猿飛くんの顔を往復ビンタして意識を戻し出すかすがちゃん。
そして何故か起きた猿飛くん。
一連の動作に長曾我部くんと戸惑いながら見送る。
部屋の外へ出れば二人で顔を見合わせて笑った。
「なんか愉快な奴等だな」
「うん、いろいろと笑っちゃうね」
そう言って笑ってはみるものの、作業を続ければ沈黙が流れた。
どうしようせっかく二人きりになったのに…。
こういう時に話を続けられない自分に一人勝手に沈んでいると長曾我部くんが口を開く。
「あのよ…さっき返事するとき一瞬間作っちまってごめんな」
「え、いや、私がいきなり大きな声あげちゃったから―」
「いや、名字のせいじゃないんだ。
バスケ部の応援に行くとは言われ慣れても…俺の応援って言われたの初めてでな、らしくもねえが照れちまった」
そう言いながら顔を落とす長曾我部くんの頬が仄かに赤い、そんな気がした。
そして…えっ?となりながらさっきの言葉を思い出す自分。
『長曾我部くん応援しに行っていいかな?』
言ってしまった。
「ごめん!私今考えたらなんて恥ずかしいことを…」
こんなの好きって言ってるようなものじゃないか。
もしも長曾我部くんがこういうことに聡い人ならわかってたかもしれない。
ただ照れただけだった長曾我部くんにちょっぴり感謝する。
「いや、本当名字のせいなんかじゃないからよ。
でも嬉しかったのは事実だからありがとな」
「長曾我部くん…」
「来月名字が見に来るなら絶対勝つからしっかり俺の応援頼むぜ?」
長曾我部くんがそう言いながら私のおでこをつんとつつく。
もう好きな人にここまでされて無反応でいられる人はいるだろうか。
いや、いるわけがない。
頭のどこかで冷静に反語を並べながら顔はすごく熱くなって、長曾我部くんと同時に顔を背けてしまうのはもう少し先の話。