「ここの看板は思いっきり大きく《文化祭》って描いてね」
「こうですか?」
「そうそう。デザインはあなたに任せるわ」
「えっ!?そんな、まさかのやり投げ!?」



「出入り口付近にはこんな感じのを作ってほしい」
「うっわ、超むずそうなんですけど」
「気・合・い・だ」



「長政様、これ、どう?」
「何だ市……………っ!?……こ、これはただの恐い看板だ!貸せ!私が修正する!」
「ごめんなさい、長政様…………市が悪いの……ごめんなさい……」
「謝るな、市…………何か黒い物が出てるからそれを早く片づけろ市ぃいいいい!!!」








 夏休みが近付くに連れて文化祭の準備も徐々にではあるが本格的になってきた。特にこの時期の準備設営係というのは忙しく、各々がそれぞれ校内に飾る看板や掲示物を作っていた。
 3年の先輩の無茶なリクエストをされたり、まさかの先輩にやり投げで任されたり等…………色んなことがあるものの作業中心の1・2年が必死にやっていた。
 そして、名前もそんな先輩たちに振り回されている側でやっていた。







「貴方達はこの輪っかの飾りを作って頂けませんこと?」
「二人でしろ、ということか?」
「そうですわ。私は少しあちらの組の様子を見に行って来ますわ」







 場所はどこかのクラスの教室の窓側。時間帯は既に部活動が始まる時間帯だった。夏休みが始まるまであと10日余り。
 それまでに大体の看板や軽い飾り付けの製作を終わらせないといけないらしい。
 名前はかすがと共にその飾り付けの製作をするように言われたところだった。






「多いねぇ」
「そうだな。早く終わらせるぞ」
「うん、分かった」







 折り紙を均等な大きさに切って輪っかの中に輪っかを通して糊(のり)を貼り付けるという単純作業だが、数はかなりあった。何せ廊下という廊下に飾り付ける物だから余計に多いのだ。
 だが、かすがと名前が黙々と作業をしたおかげで、その作業はなんと40分で終わった。






「あれ、終わっちゃった」
「うむ、黙々と作業しすぎたな」
「たしかに」






 名前とかすがはお互いを見て思わず笑ってしまった。もっと話ながらしたほうがよかったと、2人は思った。
 ふと周りを見渡せば、まだ他の所は作業が終わっていなかった。






「他のところを手伝うか」
「うん…………あ、あそこに猿飛くんと長曾我部くんがいるよ」
「あぁ、あの猿、あそこにいたのか」
「猿飛って名字だから猿?」
「…………まぁ、そうだ」







 ふとかすがは名前を見ると何故か名前の目が輝いていた。何かおかしなことを言っただろうか、とかすがは思ったが特に自分の中では変なことは言っていない。
 すると、名前がかすがが思いもよらない事を口を開いた。








「男の子をあだ名で呼んでるんだ!すごいね!」
「……………………何だか渡したくなくなるやつだな、名字は」
「なんのこと?」
「いや、こっちの話だ。気にしないでくれ」







 まさか嫌味で言ったことをあだ名と受け止めて目を輝かしていたと思うと、少し可笑しくてクスリと笑った。一方、名前はその反応に疑問を持ち、首を傾げた。
 とりあえず2人は佐助と元親がいるところまで行った。






「おっ、かすがに名字ちゃんじゃん。どうしたの?」
「早くにやることを終えただけだ」
「それでどこか手伝おうってことになって、そしたら長曾我部くんたちがここにいたってことだよ」
「おぉ、そうだったのか。ちょうどよかったな、猿飛」







 ウンウン、と言いながら佐助は首を縦に振る。
 元親と佐助の机の上を見ると、色鮮やかな薄い和紙で出来た花が1カ所に固められていた。






「いやぁ、流石に男2人でするのはなかなか骨が折れるとこだったよ」
「お前の骨は折れろ」
「ひどっ!かすが酷っ!!」






 かすがの言葉に傷ついた佐助はぶつくさと何か言いながら口を尖らせるも、かすがは無視した。
 その間に元親は名前に花の作り方を教え、名前は元親がやってるのを見ながら何とか形にすることに成功した。







「そういえば、バスケ部の大会は来月だろ?」
「そうだよー。………あ、もしかしてかすが、チアリーダーの服を着て、ボンボン持って『きゃー!佐助頑張ってー!』って言いながら俺様を応援してくれるとかそういうのやって───」







 かすがは佐助の頭に渾身の一撃を食らわす。しばらくの間、佐助の頭から湯気が出ながら気絶させられることになったのは言うまでもない。






「(頭にグーパン………)」
「(グーパンだった……)」







 元親と名前が佐助のことを哀れんでいた中、かすがは話を続けた。








「長曾我部も大会に出るのか?」
「え…………あ…あぁ、そうだぜ。………やっぱ猿飛を応援しに──」
「お前もやられたいか?」
「何も言ってねぇッス。スイマセン」







 元親が冗談で言おうとした瞬間にドスの利いた声を元親に食らわし、更に握り拳を見せるかすがの威圧に負けた。
 そんなやり取りを見ながら、名前はかすがが言っていた大会のことを考えていた。
 もし、部活の活動日と被っていなかったら是非とも行きたい、というのが本心だ。だが、行ったところで何か出来るのだろうか………






「(けど、やっぱり──)」







 私は行きたい。応援したい。

 そんな想いの方が余程強かった。すると、かすががふいに名前の背中を軽く叩いて、耳元で囁く。







「応援したいと思うのなら自分から行くと言うことを言うんだぞ」


 そう囁かれたのだった。

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