In FGO:その2




※なんでもあり時空
※クロスオーバー

ここは神秘のテクスチャをまといながら絶海の中に存在する彷徨海。そんな彷徨海カルデアベースのとある一室。

シンプルな部屋には、青く露出度の高い着物を身に纏い狐耳を生やした女性サーヴァントに、淡い水色の髪の物腰が柔らかそうで気品のある女性サーヴァント、そして長く白い髪の毛を遊ばせ簪を差し込み落ち着いた青色の着物を身にまとった女性サーヴァントが会話に花を咲かせていた。俗に言う女子会、というものなのであろうか。皆出身が日本ということもありどこか思うところがあるのだろう。定かではないが。

しかし白髪のサーヴァントは初参加らしくどうやら所作がどこかぎこちないが、二人の繰り出される会話に耳を傾け、時には笑っている。あっあのお菓子おいしそう。あとでエミヤに作ってもらおう。三人は自身らをドアの向こうから覗く視線には気づいていないのか会話を進めていく。そう私は空気……。マスターは空気……。


「刑部姫ちゃんがこの女子会に不参加ということで急遽親睦をかねて玲さんをおよびしました!……楽しんでますか?」
「玉藻さん本日はお招きしてくださってありがとうございます。こういうお茶会に呼ばれたのは初めてなので……」


緊張はしておりますが二人の会話を聞いているのはとても楽しいです。談笑する三人を眺めて立香は笑顔になる。玲さんも日に日にカルデアになじんでいっているし、日本出身のサーヴァントと仲良くしている。

お姉さんだと思っていた玲さんが人妻だと知った時はカルデア一同驚いたものの、こうして恋バナが好きな女性サーヴァントに呼ばれるようにもなってマスターは安心です。人妻とわかって円卓の騎士が色めき立っていたが無惨に粛清されたらしい。今では円卓もダビデもおとなしい。無惨とは先ほどまで絆を深めるべく、種火周回に出かけていた。もう二度と呼ぶなと言われたがどこへ行ったのだろうか。まぁいいや、今は女子会の覗き見が最優先である。いいなぁ。


「おい、何をしている」
「えっどちら様ですか」
「……マスターのくせにこんなこともわからぬのか?」
「えっえっ、無惨さん?」


見たこともない女性が立香に話しかけてきたかと思うと女性は呆れた顔を返しながら声をいつもの声に変えて見せた。本当に無惨さんじゃん、てかそんなこともできるの。

なんで女の格好をしているんですか、そう突っ込む立香に無惨は一応女子会だからなとわけのわからぬことを話し出す。参加するつもりなんですか?そう聞く立香にそんなわけないだろうと言ってのける無惨。本当に何しに来たんだ、この人。
覗きますか?そう問うた立香に並んで無惨は無言でその風景を覗き始めた。えっ本当に覗きに来たの?

その無惨の行為に大声でこいつ覗き見してますよと言いたくなった立香であったが、先に覗き見をしていたのは立香である。誘ったわけではあるまいがマスターとして褒められた行為ではないだろう。そんな二人に気が付いていないのか女子会は続いていく。


「……玲さんはなぜ最近その姿を取っているのですか?」
「あっそれ私も気になっておりました、いつもは黒髪のお姿ですよね?」
「それは無惨が来てくれので……」


この姿だと簪もありますし……そう顔を赤らめながら言う玲に二人ははしゃぐような悲鳴を上げた。その悲鳴に隣の無惨が煩わしそうに眼を細めているが玲の話を聞こうとしているためにいつもよりやけに静かである。

この人さっきクエスト周回帰りで疲れているはずなのに大丈夫なのか。清姫は玲や玉藻にお茶を注ぐ。玉藻は耳をピコピコと動かし、身を乗り出し玲にいろいろな質問をぶつけていく。
正直言って立香は玲のことをよく知らないのでこう質問してくれるとマスターであるこちらとしてもありがたい。


「その簪やっぱり無惨さんからいただいたのですか!あの御方も隅に置けませんねぇ……」
「憧れてしまいます……愛する人と生涯を共に……」
「もし喧嘩とかしたらその時は私を頼ってくださいましね、ランサークラスでしばいてやりますから!」
「夫婦間に嘘はあってはだめですから、もし心配なことがあれば私も頼ってください」
「玉藻さん、清姫さんありがとうございます。私と無惨は不老不死に近い存在ですし、時間も沢山ありますから……喧嘩もすることが出てくるかもしれませんね」


えっ、二人とも不老不死だったの?驚いた立香は無惨を見つめると、無惨はそんなことも知らなかったのかと立香をにらみ返した。いやだって聞いてないもの。それにしても不老不死?玲さんたちの世界にそういう概念があったのかと思い耳を澄ます。

玲は次々と二人の質問に答えていく。どうして不老不死になったのか、無惨との出会いだとか。玲は穏やかな顔をしながら嬉しそうにかつての日々を思い出しながらあの日のことを語っていく。マスターである自分も知らないことである、あの二人話の聞きだし方上手過ぎない?そう無惨に聞けば無惨は知らんと言い返した。知らないって。


「と、いう経緯で今までずっと一緒におります」
「純愛ではございませんか……。この玉藻、涙をなしにはお聞きすることはできませんでした」
「私と安珍さまとの恋模様もそのようにありたいものです……」
「これからもずっと一緒にいたいです……無惨も同じように思っていてくれていると嬉しいのですけれど……。ねえ無惨?」
「……」


呼ばれてますよ、無惨さん。肘を無惨に打ちながら立香は無惨に部屋に入室するように促す。覗き魔は一人で十分なので。私はこれで……と、とんずらをかまそうとした立香に玲は続けてマスターも入ってきてくださいと声をかけた。あれ。ばれてる。やばい。逃げられない。

そう観念した立香は無惨とともに部屋に入る。いつからばれてたんですか。そう問うと初めからですよを玉藻が嬉々としながら口を開いた。


「隠れているご様子が可愛らしかったので、私放置しちゃいました」
「私としてはますたぁと一緒にお茶をいただきたかったのですが……」
「でも入ってきてくださってよかったんですよ?私もマスターなら全然かまいませんでしたのに」
「えへへへへ……」


途中入室って気まずくない?そう発した立香に玲は同意するかのように頷いた。ほらやっぱり、玲さんならそう言ってくれると思ってた!立香が玲に抱き着こうとしたところひょいっと立香の襟元を掴む者がいた、無惨である。一体誰のものに抱き着こうとしようとしているのだ……。いやごめんて。玲が無惨、とそう発すると無惨は立香の襟から手を離した。


「……玲が世話になった」
「いえいえ、お二人のお話があると聞けたので私はもう満足です!」


あとはお二人であまーい時間を過ごしてきてくださいね、そういわれて顔を赤らめる玲に当たり前だと返す無惨。二人が去った後で再開されたお茶会で玉藻が趣深い表情で口を開いた。


「都を血で染め上げたあの御方の性格があそこまで柔らかくなったのは玲さんのおかげなのかもしれませんね」


えっ、まってその話も初耳なんだけれど。





「茶会は楽しんだか?」
「うん、ありがとう。待っててくれて」


別に待っていたわけじゃない。そういう無惨に玲はフフッと笑う。
それにしても煩わしいどこか覚えのある狐耳の女がいらぬことを玲に吹き込む前に玲を取り返すことができて万々歳である。あそこでいらぬことを吹き込もうとしたら乱入する気ではあったが、今後の関係性の維持のためにもそれは最悪の手段であった。まぁ玲を取り込み、座に還るのが一番なのだがそれをするとおそらく玲が怒る。


「……その姿似合っている」


私が来る前は鬼になる前の姿を取っていたらしいが、それはなぜなのだと無惨が問うと玲の手をつなぐ力が強くなり顔を赤らめてこう答えた。


「だって無惨を思い出すから……」


ダメかな、そうこちらを覗く玲に無惨は喜色を浮かべながら口づけを施す。全然ダメではないとも、部屋に帰ったら覚悟しておけよ。そう耳元でささやくと玲はコクりと頷いた。
季節がわからぬ彷徨海にも春が来ているようである。