In FGO:その1




※なんでもあり時空
※クロスオーバー

ここは人理継続保障機関フィニス・カルデア、通称カルデア。時計塔の12人のロードにして、天体科を牛耳るアニムスフィア家が管理する国連承認機関であり、人類の未来を守る機関でもある。どこかの国かわからぬ標高6000メートルの雪山に存在するカルデア。
現在諸事情により彷徨海に拠点を移している。

そんな彷徨海カルデアベースの一室に太陽のような橙色の髪の溌溂とした二十歳に満たない女と、淡く青味のかかった紫色の所謂藤色を少し薄めたような髪をこさえ眼鏡をかけた女がとある召喚陣を目の前に神妙な面持ちで唸りを上げていた。

召喚陣の上には麻婆豆腐が鎮座している。おいしそう。しかし美味しそうな麻婆豆腐に目もくれず召喚陣の前にただずむ女はブツブツと何か呟いていた。


「また麻婆豆腐……なんで召喚陣に麻婆豆腐が出てくるの」


ここは料理教室じゃないんだから、と出てきた礼装を握りしめ、再び召喚に使用するための星形八面体の形状を成した虹色に輝く石を召喚陣の上に三つほど置く。

今度こそ成功しますように。もうこの際概念礼装じゃなかったら許す、流石にカムランの戦いとか出てきたらもう泣いてしまう。アルトリアが人の朽ち果てた山の上で膝をついているあの概念礼装を引いただけでもう心臓に悪い。

本当に三回連続カムランの戦いだったらもうブリテンは滅ぶ。これがスロットならにっこり笑顔をかけるのだけれど、ここは召喚なのだ。そういえば今年の夏イベントに復刻でカジノイベが来ますように、QPが足りませんお願いします。この女なんとまぁ欲深い。そんな女の考えていることを見通したのか藤色の髪の女性はどこか呆れたように先輩、とつぶやいた。ごめんて、マシュ。

うろ覚えで召喚詠唱を唱えていく。おひさま、ひなぎく、とろけたバター、この石を金色に変えよ、これは違う呪文である。藤色の髪を持つ女性に、マシュに、怒られてしまった。稲妻の傷でも額に書いたらネズミでも召喚されないかな、いやネズミは裏切り者なのでダメだ、と適当なこと考えながら改めて召喚詠唱を唱え直していく。これで闇の帝王とか出てきたらどうする、人理保障どころの話でなくなってしまう。そもそもこの世界の魔法使いとあの世界の魔法使いの概念の差異がありすぎる。闇の帝王のホルマリン漬けか……やだな。

女の思考をよそに石に込められた魔力が召喚陣によってシュルシュルと登っていき一つの玉となる。三本線!!あと金回転!!あわよくば虹回転!!!!そう橙色の髪を蓄えた女が叫ぶも一つの玉は一本の線を描いた。あぁ……。膝から崩れ落ちるとまではいかないがどこか打ちひしがれた様子で出てきた概念礼装を拾い上げた。ライオンのぬいぐるみ可愛いね。可愛いね……。はぁ……。


「立香さん、調子は如何ですか?」
「玲さん〜!」


しょぼくれていると最近やってきた玲が、女の、立香の元にやってきた。
佐原玲は人類史においては無名のサーヴァントである。なのになぜ彼女がこうしてサーヴァントとしているのかは誰にも知らない。しかし、彼女は優しく人付き合いもよい。サーヴァントというよりも近所の優しいお姉さんみたいな存在である。よく子供サーヴァントに遊んでとせがまれているのをよく見かける。立香もその優しさに甘えてしまうときもあるのだが。

もう全然ダメです、本当にダメ。麻婆豆腐しかさっきから出てないんです。そう彼女に縋り着けば玲はマスター頑張ってと言いながら頭を撫でてくれた。玲さん本当にかわいい。聖杯あげたい。そんな推しアイドルに貢ぐ女のような思考になっていた立香は玲の胸に押し付けていた顔を上げた。召喚されて間もない彼女はよくもまぁ迷ってここまでこれたものだ。私は一か月たっても迷ってたし廊下で寝落ちしてた。


「あっ、そうだ!玲さんを触媒にしたら誰か来てくれるでしょう!」
「ふふっ……来てくれる方がいると嬉しいのだけれど」


もう自慢する程ではありませんが、料理が得意だったので麻婆豆腐を引いてしまうかもしれませんよ、そう言ってのけた玲に立香は美しい女性が引いた麻婆豆腐なら目からでも食べてやりますとも!と気のいいことを言った。そばに控えていたマシュは少し顔をムッとさせ立香を見つめていた。本当にごめんてマシュ。マシュの作るお菓子おいしかったからまた作ってねと言えばマシュは顔を赤くさせてコクりとうなずく。うふふ、うちのマシュが一番かわいいんだ。最強なんだ。しかしサーヴァントを触媒にして召喚するのは本当にありなのかもしれない。そう思いながら立香は聖晶石を玲に渡した。


「マスター?」
「一回だけでいいから!!お願い!」


召喚は私がするから、石とかおいてきて!あと私が召喚するときにそばにいてね!そういって立香は玲の背中を押して召喚陣の前に立たせた。しょうがないなぁと言いながらも実際一回やってみたかった玲はウキウキとした足取りで聖晶石を召喚陣に並べて立香の隣に立つ。それを確認した立香は呪文を唱えていく。

玲にかっこよいところを見せたいのか、時の運なのか定かではないがいつもは噛み噛みの呪文がすらすらと言える。よし今回こそは。再び聖晶石に集まっていた魔力が召喚陣を光らせ球体を作りそして三本の線を作り出した。まって、まってまって嘘。虹回転だ。くるりと金色の札が現れ、現界したサーヴァントは玲と瓜二つの男性であった。

目の形も、髪の毛の色も玲と瓜二つ。違うところを上げるというのであるならば性別、髪の毛の長さ、そして雰囲気だけであろう。
玲の第三再臨姿は真っ白な髪の毛になるのだが、今の第二再臨の姿と瓜二つである。

思わずオルタ?と横にいる玲の顔を眺めると玲は首を横に振りながら無惨、とポツリつぶやいた。無惨と言われた男は玲と同じ紅梅色の目を細めて玲、とつぶやき立香の目の前に降り立った。


「……妻の玲が世話になっているらしいな。夫の鬼舞辻無惨だ」


TSUMA??UMAの親戚かなにか?えっそれともツナの親戚であろうか、えっ、えっ?理解が追い付かない。TSUMA?つま?妻??玲さんが妻?人妻?えっえっえっ。夫?おっとっとではなく?夫?えっ。思わず玲の方向を向くと玲は恥ずかしそうに夫の無惨ですと小さい声を発した。かわいい、じゃなくて。


「嘘だ……」
「嘘をついてなにになる?私は玲が居たから来ただけだ」
「無惨……」
「玲」


待たせた、そういいながら玲の頬を撫でると玲は立香が見たこともないような顔を浮かべながら顔を横に振った。えっなにその顔かわいい。


「ずるい……」
「ずるいもなにもあるものか、この顔を見せるのは私だけでよいのだ」


マスターという立場であろうとこの顔を向けられたものは私が手を下す。よいな。そういわれた立香はコクコクとうなずいた。それにしても玲さんが人妻……。

衝撃の事実にしみじみとしていた立香は優しい笑みを浮かべた玲に手を掴まれた。えへへ可愛すぎない?


「マスター……。えっと、無惨を呼んでくれてありがとう」


ふわりと浮かべるその顔は先ほど無惨に向けた顔と似ていた。あっ待って私死んじゃう。貴様……と地を這うような声が召喚室に響き渡る。違うんです未遂です、奥さん。いやこっちは旦那さんじゃん。

睨みつけた無惨を玲が声をかけると一瞬にして玲のほうを向いた無惨。まって愛妻家過ぎない?聖杯いる?