分岐 | ナノ

※転生男主
※年の捏造、原作が1916年とかだとかは分からない。

「今日も今日とて鬼狩りどもが羽虫のようにしつこい」

白い帽子に、小洒落た黒いジャケット。中のシャツはシルクのネクタイが映える程に真っ黒で、下着がうつってしまわないか心配な程に真っ白いズボンを見に包んだ鬼の始祖である鬼舞辻無惨は目の前のパンケーキを頬張る青年に愚痴を零していた。青年は聞いているのか聞いていないのか分からないレベルの返事を返しながらおかわりはあるのかなどと無惨に聞いている始末なので多分聞いていないのである。


青年が無惨の愚痴を聞かないのにも理由があった。会う度に目の前の無惨は毎度毎度同じ愚痴をグチグチグチグチグチグチと言ってくるのだ。下手したら一度会えば三、四回は同じ愚痴を言っている。千年生きたらここまでボケるのかやらそんなにウザイのか鬼殺隊などといった両者に失礼なことを青年は考える始末。


愚痴というものは真面目に聞いたフリをしながらウンウンと適当に答えておけば良いって自分が産まれる前に死んで会ったことも無いばっちゃが言ってた気がする。と青年、松宮紬は心の中で言ってのけた。

「あんねぇ、あんま言いたくねぇんだけど鬼舞辻さんや」
「なんだ言ってみろ」

愚痴を言うのを辞めた無惨は真っ赤な双眸を青年に向ける。紬はルビーが2つ目に着いてら、綺麗だわなどと適当なことを考えながらニへらと笑う。そうして次のような言葉を繰り出した。

「俺未来が見れるの」

紬は取っておきを繰り出した!
しかし無惨には効果がなかった!無惨は死なない程度に紬の頭をはたいた。急所に当たった!さぞ痛かろう。紬はアデッっと間抜けな声を出して頭を抑えながら伏せる。いたい、痛すぎる。どこぞの埼玉メーカーの饅頭ではないが風が語り掛けてくるほどにとても痛かった。なんなんだ、本当にいたい。紬は恨めしそうに無惨を睨みつけると、その様子を見ながら無惨はざまあみさらせと嘲笑った。悪役顔が様になる。

「バカも休み休みに言え」
「バカも休み休みじゃないんだなぁ、これが。たとえ鬼舞辻無惨を産屋敷率いる鬼狩り共が討伐したとて、アイツらが生き残れる確証はないんだよなぁ」
「……どういうことだ」
「さぁね」

紬はバカは休み休みに言わねぇといけないならこの話はまた会った時にでも話してやろうじゃないかと言ってのけ、続けざまにちなみに俺と鬼舞辻さんが次会える約束なんてこんなご時世どこにも転がっちゃいないがとカラカラと笑いながら言いあげると、無惨はバカと言ったことは撤回すると言ってきた。

「俺、無惨ちゃんのそういう所大好きよ」
「休まず言え、包み隠すな。さもなくば食うぞ」

紬はちょっとムッとしたあとに無惨に奢ってもらったパンケーキを食べ……ようとしたが睨まれたためにちゃんと真面目に話し出した。少しこの時代に言ってしまえば憚られる内容ではあるが鬼舞辻が会う時に指定する場所はいつも個室であった。助かる。

「まず今この世の中ってのは大正時代って言って、1912年から1926年まであるんだな。んでもって1923年に東京は大きな地震に見舞われる。でけぇ地震だ、大戦景気ってのがあったろ?今正しくその最中じゃん、無惨ちゃ……ごめんごめんふざけた。大戦景気ってのは日本様が27億ぐらい稼いじゃったまさに好景気の時代、周りを見てみると幸せそうな奴らがたっくさんいるわけよ、けどまぁ大戦って言ってるからもう時期その戦争も終わるんだな。終わっちまったらこの景気は消える。多分消えるのは1917年ぐらいだったな、ロシアが革命によって倒れるんだ。分かるか?北海道の上の国が滅びる時に戦争は終わる。そこで人々から笑顔は消えるの。消えるけどその上の追い打ちを畳み込むようにして起きるのが1923年のさっき言った大地震、これの被害総額がなんと50億を超えるんだな。もちろん日本の経済に大きな打撃を与えてな……」

「まて、ちゃんと話せ。日本語をはなせ。」

無惨に言われて紬はマシンガントークを辞める。危ない危ない、僕の悪い癖と言いながらバチコーンッ!っと最大限の可愛らしいウィンクをすれば無惨の眉間のシワが深くなった。これはいけないと思い紬は無惨の眉間のシワの上に指を置くも、払いのけられてしまった。悲しい。

「とりあえず一言でまとめろ」

「天も時代も味方に付けてこそだよ、神も仏も居なくていいが使えるもんはなんでも使わないと」

あーん。っと蜂蜜のかかったホットケーキを食べる。この時代に転生してから美味いもんがスイーツしかねぇからいけねぇや。と思いながら紬がもぐもぐしていると目の前の人物である無惨はこちらをじっと見つめたまま黙りこくってしまった。とりあえず目の前にあるホットケーキを食べあげて店員さんを呼ぶ。無惨が黙っている間に追加注文してやろう、黙っている方が悪いのだと犯行の現場をありありと目の前で見せつけながら紬は店員さんにホットケーキを頼んだ。

「お前の言うことをどうすれば信頼できようか、まだ確定していない情報を私に寄越してきたのか?」

「うーーん……そう言われちゃそれまでなんだよなぁ」

困ったとわざとらしく腕を組む。実のところ紬は困っていない。いやまぁちょっとぐらい困ってるかもしれないが、所詮は無惨と鬼殺隊の鬼ごっこなのである。紬に実害が及ばないのなら無惨が死のうが鬼殺隊が死のうがどうでもいい訳で。むしろ死んだら夜ビビり散らしながら巡査の仕事をしなくてすむ。
ただここでこんな情報を言っているのは紬は無惨を友達と認識しているからである。

「あっじゃあさ、今年って1916年だろ?ならちょっと来年まで待ってくれよ。もう時期ロシアが倒れるから。それで信じてくんない?」

「……まぁいいだろう、もし嘘をついていたり確定していない情報を私に寄越してきたと分かったのならば今まで奢ってやった食費代を一括で請求してやろう」


えーっ!と避難を寄越す紬に無惨はとりあえず頼んでおいたコーヒーを啜る。やはり味がしなかったものの、これから起こりうることに心を弾ませる。アプローチを変えてみるのもありだなと、そう思いながら目の前の男のパンケーキを奪い取って食ってやった。味がしないものの無惨は楽しげな笑みを浮かべだ。