分岐 | ナノ

※現代
※ショタ無惨様が見たかった運営主の奇行
※男主
※続くかもしれない


雪が降りしきる師走の夜。紬は部屋に入りベットで横になり安らかな顔を浮かべている男の子の横にそっとプレゼントを置いた。彼がこの家に来てちょうど1年が経ったのではないだろうか。あの頃は自分が部屋に踏み入れた瞬間に目を覚ましこちらを警戒していた彼がこうして自分の目の前で安らかな顔を浮かべていることに嬉しさを感じている。彼のうねった髪を撫でたいと思ったがもしかすると彼は起きてしまうかもしれないと小声でメリークリスマスと呟きながら部屋から出ていく。
──家族とはこういうものなのかもしれないと、彼を引き取ることとなったあの日の事を思い出していた。





絶縁していた家族が玉突き事故に巻き込まれて死んだのだと、その知らせが己の元に届いたのは死後半年以上が経過した時であった。

──家族が死んだ。別に家族の死に対して惜しむ気持ちなんてものは紬には持ち合わせておらず、むしろその知らせを初めて聞いて己は不謹慎ながらに身体に巻き付いている錆びついた鎖のようなものが音を立ててほどけていくのを感じた。

クズという形容詞が似合う家族であったと紬は思い返す。クズと言っても紬と価値観が合わず、親という立場を使い子供を抑圧するような狡い存在であっただけの話である。妹もなぜかその親の態度に関して従順であり、そりが合わなかった。

今は平成の時代だと声を荒げたのもつい昔のことであったか。今は令和であるしあの家族は令和にはこれなかった平成の忘れ形見である。と、いうよりも時代の価値観、喋り方から何まで気持ち悪かった。まるであの家庭だけが令和でもなく、平成でもないむしろ江戸時代から大正時代辺りまでの価値観であった。価値観が合わず異質すぎたために紬は成人したその日に友人の伝手を借りて、家から逃げ出した。

その友人曰くそんなもんじゃないか、俺には親っぽい親はわからないというブラックジョークを受けたが人生一回目の己も家族というものはわからない。むしろ人生二回目の人間なんているわけがないとその時笑ったが、その時の友人の豆鉄砲を喰らった鳩のような顔は今でも忘れられない。思い返すだけで笑いがこみあげてきた。しかし今ここで笑ってしまっては失礼だと、紬は軽やかに飛びそうになる胸を抑えつけ、弁護士の話に耳を傾ける。

義理もないはずであるのに、自分を見つけ相続の手続きを進める弁護士と事務的なやり取りを行っていく。子どもに教育を施さなかった分貯め込んだ遺産の莫大なこと。こんなもの一人で使い切れるわけがないと弁護士に冗談交じりに零したところ弁護士は言い出しにくそうな顔をしながら恐る恐る口を開いた。


「じつは紬さんの妹さんには息子が居りまして……」
「おれのいもうとにはむすこがいたぁ……?」


なんだそれは。初耳である。いや、己は逃げ続けた人間なのでそんな家族の話が己の耳に届いていたら顔をゆがめていたかもしれないが。真面目に耳を傾けると弁護士はそのまま話を続けていく。

その弁護士曰く、どうやら己が消えたのちに妹は結婚をし、子供をこさえていたらしい。夫はと紬が弁護士に問いかけると事故でお亡くなりになったという返答を受ける。どうして子供が生きていたのだろうか、などという疑問が頭の中に走るがまぁ息子が生きてくれていただけでも浮かばれるのではないだろうかと思いながら紬は弁護士にその息子は元気にやっているのかと問うと気まずそうな顔をしながらたらいまわしにされているという話を受けた。なんだそれは、気持ちの悪いぐらいのあの結束力はないのかと思い、その息子を引き取ることにした。曰く、その息子のなまえは鬼舞辻無惨という。かっこいい名前だな。





いつの間にか眠っていたと紬は自身が何者かによってゆすられているのに気が付き意識を浮上させていく。どうやら己は思い返しながら眠ってしまっていたようだ。乱暴のようで少し優しいその手つきは己の息子同然のような無惨しかいないだろう。むしろこの家に無惨以外の人が居たらそれは友人だろうし、無惨は友人に会ったことがないのでおそらく友人が来ていたらこんな感じで己を起こすことはないだろう。無惨は警戒心が強い子だから。

そう考えると無惨に対しての愛おしさにあふれて笑みがこぼれる。おきるおきるとそういった紬に無惨ははやくしろと紬を叩いた。どうやら見せたいものがあるらしい。そんなに嬉しかったのかと思いながら紬は目を開くとそこに居たのは己の目の前で大切そうに昨日自分が置いたプレゼントを大切に持つ無惨の姿であった。無惨は自分が貰ったものを大切に持ち、紬から取られまいと硬く持ちながら紬に見せつけるかのような笑みを浮かべていた。


「サンタもようやく私の良さに気が付いたらしい」
「おー……」


紬、このサンタは気が利くやつだったらしくてコントローラーが二つあるから遊べと無惨はせかすように布団から紬を引っ張り出そうとするも紬はまだ寝ていたいと無惨を布団の中に連れ込んだ。あらやだこども体温。温くていいわぁと紬が無惨を抱きしめると腕の中の無惨がふふふ、と笑い声が上がった。まだ少し抵抗があるのか身体を強らばせている無惨の身体を優しくたたくと無惨は夢の中に旅立って行ってしまった。唯一の家族、無惨からこの状況が幸せなのかはわからない、しかし今だけはこのやり直しのような人生をもう一度。改めてメリークリスマス。こんな日もあっていいか。