分岐 | ナノ

汽車が黒煙を吐き散らせながら線のような道を走らせる。線というとか細く弱そうに聞こえるかもしれないが、鉄の線である。鉄の道、鉄道。前世でも今世でも汽車に乗るのは初めてなので少し私は心を躍らせていた。レトロな車内はこの大正の世の中を生き、まだレトロと形容していいのか少し疑問であった。

そんな私の身を揺らし向かうは暗い闇の中。他の席には四人ちゃんと腰をつけているのに、私が座る席には人っ子一人座っては居ない。それは私の噂ゆえか、ただ単に乗客がいない故か。ぼうっと意識を軽く外へ向ける。しかし自然元来の景色は無限列車が巻き起こす黒煙によって遮られ見れたものではなかった。期待外れ、そうつぶやくと隣に男が座った。炎のような髪の色をもった男である。その男は私に邪魔をするぞと威勢の良い声をかけ、持ち込んだ大量の弁当の一つを開け食べ始めた。


「うまい!」
「……」


話したこともない人間にかける愛想もなく、私は私の目の前でひたすらに弁当を食べ続ける男を視界に入れぬように外を眺め続けた。何も見えない。御館様はどういう真意で私をこの任務に就かせたのかは知るよしもない話ではあるがさっさと鬼を倒し向かった先の現地にておいしいものを食べて帰りたい。鬼殺隊の経費で落とそう。鬼殺隊の中での私の株は落ちきっているものであるし、経費が落ちないなんておかしな話ではあるまい。そうと決まれば何を食べようかと心を弾ませていると女の鬼殺隊士がやってきた、誰だこいつは。そう思いその女に一瞬視界に入れるもさほど湧くような興味もなくそのまま列車の外を眺める。変な空気が辺りに漂うぐらいならば一人で四つの席を占領したかった。ちくしょう。
そう思いながら先ほどかった弁当を食べようとするも、ない。男と女の鬼殺隊士をよそに私は唯一楽しみにしていたご飯を探す。椅子の横、ない。荷物置き場、ない。座席のしたはもちろんない。
ならばいったい何処へと手を口元において己がこの列車に乗るまでの間の行動を思い出す。御館様から頂いた汽車の切符を片手にそのまま向かい、お弁当を買って……。えぇい思い出せない、ここにある事実は己が弁当をどこかへ置き忘れてしまったことだけである。腹が減っては戦はできぬ、あーもう任務終わった、帰ろう。ここで降ろしてくれ、いやしかし御館様たってのご依頼であるのだ。……鬼って食べれるのだろうか。
ある偉人はカレーにしてしまえば何でもおいしいと言っていた気がする。いや知らんけど。鬼を食べてみるのもいい気がしてきた、今後のサバイバルの知識に役立つだろう。なんなら本にしてしまってもいいかもしれない、鬼殺隊士をやめた後は物書きになってもよいなと食べ物のことを考えまいと思考をよそにやるも体は正直であった。腹がなってしまった。その様子を眺めていたのかは定かではないが、目の前の炎のような男は私に声をかけて一つの弁当を差し出してきた、これはいったいどういうことであろうか。あーんからの自分が食べる弁当バージョンであろうか。あげると言ってまぁ俺が食うけどみたいなものなのであろうか。そう思いながら私がその弁当を受け取らずジッと眺めていると男は笑いだした。私に失礼ではないだろうか。
私がジッと男を見つめると男は私に詫びを入れながら私の手を掴み弁当に添えた。

「笑ってしまってすまなかった!」

良ければ貰ってはくれないかと言われて礼を言ってそのまま蓋を開ける。おいしそうな幕の内弁当であった。


「お金支払います」
「要らん!その弁当は君に食べて貰いたがっているからな」


だから君が食べてくれ!そういわれるがままに弁当を食べる。おいしいと口をほころばせる私に目の前の男は良かった、うまいことは良いことだ!と自らも弁当を食べていた。女は何か言っている気がしたが私のあずかり知らぬことであるもで興味もない。弁当をくださった男の人は良い人である。

私が手べ終えた後も目の前の男は弁当を食べ続けた。うまい!うまい!と言いながら食べる男を見る。しかしその髪色どこかで見たことがある気がしてきた。前の柱の煉獄さんもこのような髪の色であった気がする。まぁあの人は引退したと風の噂で聞いたので今その柱の座にいる人はわからないが柱の継ぐ話も私に来たのだから私ではないもう一人が柱となるのだろう。そうこうしているうちに若い男が三人ほど目の前の男を訪ねてきた。すみませんと声をかける額にあざがある青年をよそに男はうまいと言いながら弁当を食べる。


「もぅ、煉獄さん!炭治郎くんたちが困ってますよう」
「ムッ、それはすまなかった」


先程の女に言われ煉獄さんと言われた男は目の前の青年と会話をしていく。あっ髪の色が似ていると思ったがあの煉獄さんの息子だったのか。似ているはずである。それにしても、ひーふーみーよー……。この座席は四人までなはずであるのにいつの間にか人が多くなってきたな、よし私は席を変えよう。そう思い立ち上がると金色のタンポポのような髪型の青年は私の顔を見て悲鳴を上げた。すまないなこんな顔で。そう思いながらニコリと笑みを浮かべすまなかったねというとさらに悲鳴を上げた。失礼すぎやしないだろうか。


「すみません、すみませんすみません虐めないでーーーッ!!」
「……人なんていじめませんよ、それよりも羽織が汚れていますよ」


噂というものは面倒がくさいなと思いながら席を探しに動こうとしたその時煉獄さんに声をかけられた。


「もともと君が座っていた座席だ、どうかこのまま座っていてくれ!」
「……いえ、目の前の彼女も貴方と座りたがっているようですし」


座りたいと願う方が居ればその方と一緒に座るべきなのでは、と言うと煉獄さんは俺が君と座りたいんだ!と言い返されてしまった。なんだって。しかしそういわれてしまえばどうすることもできずに先ほど女から炭治郎と呼ばれていた青年の目の前に腰を再び下ろす。

炭治郎が私の方を向きお辞儀をしたので会釈を返す、同席していたも話すことは何もないのでこうして話してくれるとありがたい話である。
女は煉獄さんと座るのを諦めたようでタンポポ髪のこと一緒に座ろうとしたようだ。呼吸について話が盛り上がっているようだ、炭治郎が私の呼吸を聞かれたのだが私は糸の呼吸だと答える。今まで出てきた呼吸には該当しない呼吸を使っていて申し訳ないがこれ以外しっくりくるものがなかったのである。そうこうしているうちに話は鬼の話題へと変わっていく。騒いでいるとやせ細った車掌が切符を確認してきた。私は黙ってそれを渡し目の前で切符に切り込みを入れられるのを確認した。


パチリ。