逃走中パロ


いつの季節かはわからない。もしかすると昨今のような雪が桜を隠してしまうそんな季節なのかもしれないが、兎にも角にも玲は当てもなく走り続けていた。
路地に潜り、走る、走る、はしる。時には何かから逃げるかのように右に曲がり……かと思えば左に曲がった。体力に自信がない玲は精一杯走り続ける。何かから逃げてるかのようにではなく、実際に逃げているのだが。

息が上がりそうになるのを堪え後ろを振り返り自身を追いかけている存在を確認した。──しつこい。サングラスに黒スーツを身に纏った男。一人だけならばまだしもこのような男が後三人居るとこの状態で正面に来ると詰むしかないのだが。

そんなことを考えずに玲は走った。撒けるように、逃げきるために。早くどこかへいってほしいと思いながらも望むスピードが出ない玲に対して黒スーツの男との距離は着実に縮まっていた。

どうにかしなければと走り続けていると幸か不幸か目の前には人の影。相手はこちらに気づき手を振ってくる、本当に状況が状況であるのならば玲も振り返していただろう。というよりも逃げて。


「無惨、ごめん!」


玲に呆気を取られた無惨であったが、すぐにやってくる黒スーツの男の姿を見て全てを察した無惨は玲とは違う方向に逃げ出した。

なにをしている玲!と叫ぶ無惨の声をよそに、玲は本当に申し訳ない!と無惨が走っていった方向に向かってそう叫けび返した。あっ、タゲが無惨に行った。





「……さっきはよくも」


玲が肩を掴まれ振り返れば無惨が鬼の形相をしていた。元鬼が鬼の形相をしていることに玲は少し笑いそうになるのを堪え、無惨に謝罪を述べる。ごめんね無惨。ふん……まぁいい。自分の夫といえども少し自分に甘くはないだろうか。そんな無惨にレイは少しの心配をする。


「ねぇ無惨」
「どうした玲」


私に声をかけてきてくれたと言うことはこう言うことでしょう、と玲は無惨に自分の元に届いたメールを見せた。参加人数が二人からというミッションである。報酬は定かではないがかなりリスクが高いこの内容きっと何かあるはずである。無惨は目を細めコクリと頷いた。


「一緒に頑張ろうね」
「もうなすりつけることはするなよ」


でも逃げ切れたのでしょう?そう言ってのけた玲に無惨は玲の頭を小突く。本当に寛容になったものだな、と自らの思考を振り返り無惨は目の前で痛がる玲の手を取った。先ほどのささやかな仕返しだと、このミッション貴様に声をかける前に産屋敷に声をかけられた、といえば玲の無惨の手を掴む力が強くなった。
顔に出さずとも行動でわかる玲に愛おしさを感じながら無惨は玲と歩き出す。

ゲームはまだ続くのである。