おでん(修正前)(明治時代)

※待宵の月「おでん」の修正前

季節を抱くようにして吹いていた木枯らしも寒さに逃げ出したある冬の日のことである。

「……おでんか」
「えぇ、先程おでん屋さんがこの道を通ったので」

やっぱり寒い季節、鍋かおでんですね。そう言いながら玲はおでんを頬張る。たまごに大根、はんぺん、竹輪どれも熱を帯びて玲に食べられるのを待っているように見えとても愛おしい。

「して、これは一体なんだ」
「何って無惨さんの分のおでんですよ」

腹は満たされぬとも味は分かりますでしょう?ささっ冷めないうちに食べてしまいましょうよ。私じゃ食べきれないんですよ、この量。と、玲に勧められ無惨は大根に手をつけると、熱い出汁が大根から染み出してとても美味かった。

「美味しいでしょう?」
「あぁ美味いな」

まだまだあるんでじゃんじゃん食べてくださいね!と、言ってのけた玲に無惨はどれほど買ったんだとツッコミを入れると、玲はどれも美味しく見えてしまったので、と、少しか細い声で答えた。そんな玲に呆れながらも無惨は箸を進める。満たされぬ腹が満たされた気がした。

[ prev / next ]