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クチナシの幸せ



 高校三年の冬。
 卒業式の日に半年も付き合っていた彼氏にフラれた。
 人がいなくなった教室で机に突っ伏してわたしは愚痴をぐだぐだと並べていた。

「意味わからーん!」

 彼氏曰く「おれのこと好きじゃないよね」。
 確かに告白されたからOKした。好きかどうかは未だにわからない。付き合えば好きになれるかなと思って安易に答えを出してしまった。だから、フラれたって悲しくはないのだ。だけど無性に寂しくなった。この半年間はなんだったんだろう。なにをしていたのだろう。って――

「……自業自得だろ」
「うっさいなー」

 わたしは愚痴を聞いていたのかと驚きつつも顔を上げた。
 こいつは8つ年上でこの高校の教師であり、不本意ながら幼馴染みでもある。それなりに顔はいいから人気が高いらしい。でも、こいつはもう誰も愛さないことをわたしは知っている。そしてわたしもたぶんもう誰も好きにはならないのだろう。否、わたしは既にこいつに恋をしているから他の男を好きにはなれない。

 恋をしている以上に恨んでいる。

 こいつは死んだわたしの姉の恋人だった。
 姉のことが大好きだったわたしは姉を死に追いやったこいつを許すことができない。

「卒業おめでとう」
「ありがとー」

 ずっとわたしたちは姉に縛られて生きていくのだ。幸せなんて望まない。いや、これはこれで幸せなのかもしれない。だって、わたしがこいつといれば二人はずっと姉を忘れずにいられるだろうから。


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