二人っきりの帰り道。視線を上げると月が見えた。満月だろうか。赤みがかっていて橙色に見える。これは赤い月と呼んでいいのだろうか。 明るい金色ではなく、少し薄暗い丸い月を見て無意識に溜め息が出た。何故だろう、意味もなく不安になった。 「……疲れた?」 「ううん。そうじゃないよ、月が――」 綺麗だなんて言えようか。隣を歩く文学少年に言えるわけがない。神経質かもしれないが、発言は気を付けるに限る。 少年はわたしに向けていた視線を月に移した。「あ、ホントだ」と小さな呟きのあと立ち止まる。数歩進んでしまったわたしも立ち止まって少年の方を振り向いた。夜の闇に溶け込んで消えてしまいそうな少年にわたしの不安は煽られる。なのに足が竦んで動けない。消えないで。 向かい合ったわたしと目が合うと、少年は淡く微笑んだ。 「月が綺麗ですね」 先程わたしがうっかり言いそうになって留めた台詞を少年は意図も簡単に言ってしまった。その言葉に隠された意味をそのままに受け取っていいのだろうか。不安ばかりが膨らんでいく。消えてほしくない。 「私、死んでもいいわ」 気付いたら口走っていた。 この返答は伝わるだろうか。文学少年なら知っているはず。わたしは文学少女ではないけれど、国語教師が補習の時に蛇足話として教えてくれたから知っていた。 少年は眼鏡の奥の瞳を濡らしてはにかんでいた。 |