百花繚乱 | ナノ

     Lady×Ready?


 紅薔薇学園は由緒正しき女子校である。
 黒薔薇学園の姉妹校であるが黒薔薇学園とは違い、誰でも入れるわけではない。成績と金が必要なのである。故に他校からは『お嬢様学校』などと言われていたりする。そんな紅薔薇学園の最大の目的は立派なレディを育て上げることである。

  * * *

 紅薔薇学園学生寮。
 たまたま、偶然、ひょんなことからルームメイトである青柳菫が男であることを知ってしまった霜月橙子は203号室のドアを開けて溜め息を吐いた。

「トーコちゃん、おかえりー」

 部屋の真ん中に寝転がって携帯ゲーム機に目を向けたままおかえりを言うタンクトップにハーフパンツの美少年。なんて無防備。男だとバレたら退学だと言われているのに。しかも男だと知ってしまった橙子も巻き添えで退学にさせられてしまうらしい。なんというとばっちり。

「スミレさん、何度言えばわかってもらえるのかしら?」
「トーコ以外にこの部屋に入るお嬢さんなんていないよー」

 確かに他人の部屋に呼ばれもしていないのに入るのはレディとして如何なものかと思うけれど、そのだらしない格好もどうかと思う。どんな事情があるのか知らないが女装をしてまで入学したのだからもう少し危機感というものを持って欲しい。
 橙子は寝転がっている菫を跨いで自分の机に荷物をどさりと置いた。

「置き勉すればいいのにー」
「寮が近くにあるのに?」
「……ロッカーはなんのためにあるのさー」

 不思議そうに首を傾げた橙子に菫は今日初めて微笑んだ。この部屋を一歩出れば彼は彼女になる。彼女はとても愛想がいい、反対に彼は滅多に笑わない。話し方も全然違う。たまに別人じゃないのかと思える程の豹変ぶりなのだ。

「なんのため?」
「か弱い女の子のか細い腕への負担を減らすためだろー」
「……スミレはか弱くもなければか細くもないじゃない」
「だーかーらー!俺じゃなくてトーコ!あーゆーあんだぁすたん?」

 だんっと立ち上がって橙子の目の前で橙子を指差す菫。自分より幾分か背の低い菫を見ながら少し考えた。

「いや、私はみなさんより丈夫だから平気よ?」
「……はあ?」

 何が平気なのかと菫は呆れた。彼にとって(たとえ自分より背の高い女子であろうと)女の子はみんなか弱くて可愛い生き物なのである。守る対象であってほしいのだ。家の事情で入学させられた女子校、しかもお嬢様学校で男の自分より逞しい女子になど会いたくない。複雑な心境になるから。

「トーコといると俺の理想が崩れていく気がする…!」
「虚構よ、そんなもん」
「夢見たいお年頃なんだよー」
「現実を見なさい」
「ひでぇー!」

 菫はソファに座り携帯ゲーム機で音ゲーをやりながら、橙子は机に向き合い課題をやりながら、そんな会話をしていた。

    
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