獣使い あの日、春菜を助けてくれたのは十六夜だった。春菜の両親は助からなかったけど、完全に燃えて消えてしまう前に家屋から出してくれた。お墓まで作ってくれた。そして、村で何が起こったのかを教えてくれた。 ■ ■ ■ 煙と馬鹿は高い所が好きらしい。きっと悪役も風通しのいい高い所が好きだろう。メイファは別に好きじゃないけど、高い所から探し物をしている。だって猫が木に登って降りられなくなることも珍しくないから、より高い所からそれを探しているのだ。 「キミは……バカなのかい?」 昼なのでまだ灯されていない街灯の上にいるメイファは聞こえた声の方を向いた。つまり、視線を下ろした。 「ラウ!?」 「こんにちは」 なんでこんなところに。 驚きで足を滑らせて落下したメイファをラウは軽々と受け止める。以前、蹴り飛ばされた男に助けられた。邪魔をしたからだけど、蹴り飛ばされたのだ。なんだか変な気分だ。声を掛けられたせいで落ちたし、お礼は言わないでおこう。 「カミサマは無事に見付かったみたいだよ」 「? なんで??」 「早く行ってあげないと、金髪の彼――」 なんで知っているのだろうと疑問に思いつつ、ラウの言葉を待つ。 「――猫アレルギーだから」 「えっ」 「ぎゃあぁぁあああ!!!」 レオンの絶叫が響いた午後2時。次いで盛大なくしゃみも響き渡る。 ■ ■ ■ 「絶叫するほど嫌いなの?」 カミサマを抱いていた春菜が悲しそうに問いかけた。転んでいたレオンは慌てて否定しようと立ち上がり詰め寄る。バカだこいつと永久は冷静に判断した。 「ち、ちが――くしゅん! アレルギーなんだよ! っくしゅん!!」 アレルギーなのになんで自分から近付いたんだろうか。バカだろ。 春菜は理解したのかすすっと永久の後ろに隠れた。俯いていて表情はわからなかったが安心したようだ。春菜にとって動物は大切な友達だから嫌われているわけではなくてほっとしたのだろう。 「みゃー」 「うん」 今度はレオンが心配そうに春菜を窺っている。しかし、猫がいるから近付けない。しかもふわふわな毛の猫である。彼からしてみれば発狂ものじゃないだろうか。 「いや、っていうか、なんでオマエ、その子と一緒にいんだよ」 「なんでって……」 「……なりゆき?」 春菜がこてんと首を傾げる。成り行き。カミサマは自分の仰仰しい名前に嫌気が差して家出をしたらしく、それを春菜が諭してカミサマは家に帰ることになったのだが、永久が抱っこしようと近付くと脱兎の如く逃げるので、春菜ごと連れてきて、今に至る。春菜はラウの仲間で捕らえるべき人物なのだろうが、カミサマの保護も必須である。仕方ない。 「レオン! 永久くん! 見て、ラウを捕まえたよ!」 「捕まってしまったよ」 メイファが大きく手を振りながら駆け寄ってきた。その手にはラウが捕まえられていた。ん!? 「なんかよくわかんないけど、お手柄じゃん! ふぇ、くしゅん!」 「大丈夫? あ、カミサマ!」 「ナー」 この猫、オスなのかな。 春菜がメイファに猫を渡した。その直後。 「メイファ!!」 ラウを捕まえていた手に刀が振り下ろされる。咄嗟にメイファは手を離した。 「十六夜、僕の手も斬るつもりかい?」 「わー。惜しかったなー」 こんな街中で刀を振り回すとかバカじゃないの。しかもラウまで斬ろうとしてたとか、仲間じゃないの? 十六夜は刀を鞘に納めたけれど、狐面に黒装束は悪目立ちしているようで辺りは騒然としている。 春菜は二人の方へ行こうとしてなにか思い出したのか永久に向き直る。 「あっ、あのね、永久!」 「なに」 「えっとぉ……」 どう言えばいいのかわからないのか言い惑っている。そんな春菜に十六夜が助け船を出す。 「リネって子を預かってるから引き取りに来て」 「……は?」 「ちがう、そうじゃな――」 「村の井戸のところ、わかるよな? ちゃんと来てね」 十六夜は手をひらひらと振りながら、ラウと春菜を連れて立ち去ろうとする。 「そんな簡単に逃がすわけねーだろ」 「さ、さっきはびっくりしたけどっ!」 レオンとメイファが武器を構えてラウたちを睨んでいた。武器というか、デッキブラシとホースである。向こうは刀を持ってるのになんでそんな装備なんだ。持ち合わせていないからだろうけど。呆れながらも永久は袖に隠していた銃を両手に構えた。 そこでふと気付く。 「カァ」 鳥が多い。カラス、ハト、さらにワシやタカなどの猛禽類までいる。 「……ごめんね」 春菜が静かに呟いた。それが合図だったかのように鳥たちが一斉に羽ばたいた。 「うわっ!」 「きゃあ」 「っくしゅん!! ちょ、カミサマこっち来んな!」 ばっさばっさと群がってくる鳥に足止めされている間にラウたちはいなくなっていた。レオンはカミサマに足止めされていたみたいだけど。 |