緋眼の魔女 焼失した村でリネ・アークは一人、立ち尽くしていた。 幼馴染みたちを探して飛び回って疲れてしまった。春菜も永久も剣も見付からない。この村と一緒に燃えてしまったのだろうか。 「……ひとりぼっちになっちゃった」 魔界で魔女として優秀な成績を持つリネは天才と称され孤立していた。アーク家の養女で元々魔女の血縁ではないからと疎まれて遠巻きにされている。そんなリネにとっての心の支えはこの村にいた幼馴染みたちだった。 魔王に許可を貰っているからとはいえ、魔女があまり長く魔界を離れているのはよくないだろう。帰らなければと思うのにリネは動けなかった。 「おねぇえさんっ!」 後ろから声を掛けられて村の生き残りかと淡い期待に振り向けば、リネは見知らぬ幼い子どもに襲われた。 野球でボールを打つときに使うバットを腹に喰らう。どうやら子どもは走ってきた勢いのまま肩に担いだバットの先端をぶつけてきたようだ。 ■ ■ ■ 目を開けると知らない人がいた。 「あら、起きた」 おにいさ……オネェさんだろうか。頬に手を添えながらリネを見ていた。まるで値踏みをするかのように。ぼんやりと眺めていたらオネェさんはぱんと手を叩き愉しそうに笑った。 「あなた、魔女ね! 久しぶりだわ〜。どこに売ろうかしら」 本当に値踏みだった。逃げなければ。立ち上がろうとしたリネの頭に硬いものが当たる。幼い子どもが笑顔でこちらに銃口を向けていた。 「逃げちゃダメよ〜」 ファイルを漁っていたオネェさんが幼い子どもの頭を撫でる。 魔力を扱う者は魔界の外で魔法を使ってはならない。いくら優れた才能があったって使えなければ意味がない。どうすればいいのか。リネは必死に考える。 「商人さん、その子を俺に売ってくれない?」 音もなく、いつの間にかそこにいたのは狐のお面の怪しい人。オネェさんも子どもも驚いていた。 オネェさんは笑顔を作って狐面の人と向き合う。 「舞踏会でもないのに仮面なんか付けて商談だなんて……無礼じゃないかしら?」 「あなたほどの美貌に晒せるような顔ではないんでね」 「あらまァ」 え、なにこれ。商談? ナンパの間違いじゃないの。 二人のよくわからないやり取りを見ていたリネに狐面の人が「そうそう」となにかを思い出したかのように告げる。 「魔法は自己防衛なら使っても構わないんだよ、緋眼の魔女さん」 「えっ、なんで――」 そんなことを知っているのか。リネが問う前に、子どもが発砲した。リネは慌てて魔法で軌道をずらし、ついでに電気を操ってオネェさんと子どもを気絶させた。せ、正当防衛だよ! |