レオン 15歳という若さで天才科学者と謳われた少年は突然、その世界から姿を消した。余談だが、数年前に彼の姉も行方不明になっている。 □ □ □ 目を開けると知らない場所に立っていた。ぼんやりと道の真ん中に立っている。なにをしていたんだっけ。 「どうした、迷子かの?」 思い出そうと思考を巡らせたその時、白いフードを被ったてるてる坊主のような装いの少女に話しかけられた。誰が迷子だ。だが、此処が何処だかわからない。つまり、なるほど迷子は自分か。 反応が返ってこないことに少女が不思議そうに首を傾げると波打つ紫の髪がフードから一房溢れる。見上げてくる黄土色の瞳が、間近に迫る。あまりの近さに驚いて数歩退いたのちに尻餅をついた。 「いってぇ」 「ほほっ! 一人でなにをしておる」 「いや、あんたが――」 「うむ。迷子か」 人の話を聞けよ。文句を言う隙も与えずまた迫ってきた少女にこのままではマウントポジションをとられかねないと慌てて立ち上がった。が、すぐに後悔した。 「まあ、なんでもよい。来い」 がしっと腕を掴まれ連行されてしまったのである。 なんだこの強引な少女は! □ □ □ 連れてこられたのはお洒落な喫茶店。慣れた様子で店内に入った少女に店のマスターと思われる人物が深々と礼をした。いらっしゃいませじゃないのか。 少女はいちばん奥にレオンを座らせると、その向かいに腰を下ろす。 「わらわは福沢理子。この世界の女王じゃ」 …………は? 唐突すぎる自己紹介に瞠目するしかない。 「気付いておらんのか? ここは、おまえ――名前はなんというのかの?」 「レオンっす」 「ほう、よい名じゃ。ここはレオンがいた世界とは異なる世界じゃ」 「……なんで?」 「わらわは見てしもうた、お主がどこからともなく現れるのを。道の真ん中だというのに道行く人々は誰も気付かなかった。だから異世界人かと思ったのじゃが違ったかの?」 「いや、そうじゃなくて! 確かにオレがいた世界には世界単位で女王なんていないし、こんな街も知らないけど、はいそうですかって信じられるか!!」 レオンは科学者であり、超をつけてもおかしくないほどの現実主義者である。つまりは非科学的、非現実的な理子の話は納得できるものではないのだ。だが、彼女が嘘を言っているようにも思えない。戸惑った末の否定である。 「異世界なんてあるわけねぇだろ!」 「レオンの世界ではどうだかは知らぬが、この世界では異なる世界から人が来ることは珍しくないぞ」 「オレの常識ではありえねぇよ」 「うむ、わらわは非常識なのかの。実はわらわも異世界人なのじゃが――」 「いやいや、あんたさっき女王っつってたじゃん!?」 からかっているのかと改めて疑ってみても、彼女はこてんと首を傾げて何もおかしなことは言っていないと所作が主張する。なんなんだ。違う世界から来た女王が治める世界とか。 「わらわはこの世界に呼ばれてすぐに女王になるべく奔走して碌に異世界人のことを考えておらんかった」 「呼ばれた?」 「そこはどうでもよい。とにかく、わらわは後悔しておる。今、一部の異世界人たちが起こしている事件が手に負えなくて困っておるのじゃ」 レオンの疑問点はどうでもよいと切り捨てられた。割と最初から思っていたけれど、この人マイペースだな。レオンがこれみよがしに溜め息を吐いてみても全く気にした様子はない。 「今日会えたのもなにかの縁じゃ。手伝ってたもれ!」 「はあ!?」 「行くところもなかろう。ここを使うとよい」 「えぇぇぇ……」 こうして違う世界からこの世界に来てしまったレオンは世界女王福沢理子に保護された。 喫茶店に居候しながら店の手伝いをし、たまにくる理子の依頼もこなしつつ、天才科学者と持て囃された頭脳を活かして自分の世界に帰る方法を模索していくのであった。 |