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【もちよっつ! ぼたもち『四つ子やめたい』】
望月ぼたんには兄がいる。同い年の兄が3人。ぼたんは末の妹である。
「四つ子やめたい……」
「また言ってるー」
「全校集会の度に言うよねぇ」
ぼたんの兄たちは分野は違えどとても優秀だった。集会の度に表彰されている。意味がわからない。四つ子というだけでも十分に目立ってしまうのに、わざわざ目立つような成績を修めにいかないでほしい。なにもないぼたんがいたたまれなくなってしまう。
机に突っ伏したぼたんの頭を友人である笹木美笹と桃谷胡桃が撫でてくれる。毎月恒例。四つ子をやめたくなる月初め。
「お兄さんたちが聞いたら悲しむよー」
四つ子だから上も下もあまり意識しないけれど、兄たちからしたら一番下の妹は特別らしい。ひとりだけ性別が違うし、取り柄も抜きん出た才能も持ち合わせていないし、平々凡々などこにでもいる普通の人間であるぼたんを何故かとても可愛がってくれる。言い方を変えれば過保護なのだ。兄たちに「四つ子やめたい」なんて言ったことはない。一度、母に溢したら「お兄ちゃんたちには絶対に言わないであげてね」と諭されてしまった。母も優秀な息子に思うところがあったのだろう。「お母さん、凡人だからあの子たちの才能が怖いわぁ」と笑っていた。笑うところだったのか未だによくわからない。
「いいなぁ、お兄さんかっこいいなぁ」
「桃ちゃんにはかっこいい幼馴染がいるじゃんか」
「……梅はかっこよくないよ」
かわいいなぁ、と美笹と声を揃える。胡桃には梅山虎梅という登下校を共にしている幼馴染がいる。どう見ても両想いなのだから早く告白でもして付き合っちゃえばいいのに。
「せめてわたしにもなにか誇れるものがあればよかったのに……」
「不器用だもんねぇ」
なにか少しでも誇れるものがあったなら、四つ子として兄たちと並んでいられるのに。なにもないぼたんじゃ、並べられるのが恥ずかしい。比べられるのが怖い。出来損ないだと兄たちに思われたくない。
「そういえば、従兄が帰ってきてるんだけど」
「華道家の?」
「そう。ぼたん、華道とかどう? やってみる?」
昔から才能を探して色んなことに挑戦してきたぼたんだけれど、まだ華道はやったことがない。
美笹の従兄にあたる竹森伊竹は現役高校生の華道家として有名だった。会ったこともないし、よく知らないけど、どこかに行っていたらしい。
ばっと顔を上げて、美笹の手を握る。
「やる!!」
「じゃあ、竹に連絡してみるね」
「お願いします!!!」
少しでも兄たちに近づきたい。並びたい。
「わたしもやってみたーい!」
「いいけど、連絡してみてダメだったらごめんね」
「笹ちゃんもやろう?」
「えっ、やだ」
「「なんで!?」」
はっきりと拒否した美笹にぼたんと胡桃が詰め寄ると困ったように笑って視線を逸らされた。なになに、怪しくない?
詳しく話を聞こうと思ったらタイミング悪く始業のチャイムが鳴る。ほっと息を吐く美笹と不満げに可愛らしく頬を膨らませる胡桃はしぶしぶ自分の席に戻っていった。ちなみに席順は名前順なので胡桃はぼたんのふたつ後ろの席で、美笹は3列離れた席である。
がたんと後ろの席が音を立てたのでそちらに振り向く。慌ただしく席に着いた四つ子の三男、わらびはぼたんと目が合うと眩しい笑顔を向けてくれた。
「ぼたん、嬉しそう! なんかあった?」
「うん。華道やってみようかなって」
「華道! いいね! ぼたん、センスなさそうだけどがんばってね!!」
さり気なく失礼なことを無垢な笑顔で言われた。そうか、華道ってセンスがいるのか。途端にもともと少なかった自信がさらになくなった。