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がたがた、ごとん。ばさり。読みかけの本が落ちる、飲みかけの紅茶がカップからこぼれる。ああ、せっかくきれいな色だったのに。栞もはさんでいないのに。
「近づかないで」
若草の色をした彼女は、目を塞ぎ、顔を俯け、両手で顔を覆い、青年に背を向け言った。
「はやく、はやく出て行ってください」
わたしの前から姿を消して、お願いだから。
「わたしの目を見たら、石に、なってしまう…!」
その言葉に、烏のような漆黒の髪を持つ青年は、眉間にしわを寄せ、不機嫌そうな表情をさらに歪ませた。近づかないで、彼女は何度も繰り返すが、青年は聞かない。うつむく彼女にゆっくりと近づき、視線を合わせるようにしゃがむ。
その仏頂面にはよほど似合わない優しい声で、諭すように青年は言う。
「俺だって石になるって、怯えて暮らしてた」
きつく閉ざした紅玉の瞳が、まぶたの奥でゆれる。覆った両手が、ゆっくり離れていく。
恐る恐る顔を上げると、青年と視線が合う。
「だけど…世界はさ、案外、怯えなくていいんだ」
やさしくやさしく。
彼女の若草色の髪を撫でながら。
涙の溢れる紅玉の瞳をしっかりと見つめ。
赤銅色の瞳は、静かに笑っていた。
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