「ごめんなさい、セレーナ」

水色髪が謝罪する
大丈夫だよ、なんて言葉は彼女の魔法で泡となり消えた





マスルールと過ごす1週間「月曜日」





本当にごめんなさいと頭が下げられる
黒い帽子が大きく振りかぶってきて私の鼻先を掠めていった
1,2歩後退りして、彼女の背後を見て更に数歩引いていく

彼女が顔を上げたと同時に私は衣服を翻し逃げた
しかしそれはあっけなく掴まえられる
ぎゅうっと力強く背中から抱き締められ名前を叫ばれた

「セレーナ!!」
「いやああああ離して!違うあなた違う!絶対違うううううう!!!!!」
「落ち着いてセレーナ!私が言うのもなんだけど落ち着いて!!大丈夫肉体はマスルールくんそのものなの!ただちょっと魔法の失敗で性格が変わってしまっただけなのよ!」
「ああ、俺は俺だろう?」

違う。絶対違う
そこはかとなく王に似ているし、貴方はそんな、そうやって私に微笑みかけるようなキャラじゃない
爽やかにきらきらしているようなタイプじゃない
嫌がる私を気にせずハイテンションで頬擦りしてくるような、そんな

「ばかあああ!」
「ごめんなさい、すぐに戻す魔法を考えるからほんの少しだけ我慢して!!」
「嫌だ!こんなマスルール嫌!!」
「…イヤなのか」

しゅん、ぺたん。なんて効果音が付きそうな顔
一瞬獣の耳が見えた気がして思わず瞳をごしごし擦った
哀しそうな瞳はいつもと同じように見えて、そんなことない!と力強く否定してしまった

途端、降り注ぐ笑顔

「そうだな!そんなはずないよな、俺達恋人なんだs「やっぱり違う!うわああああん!!!」

腕を振り解いて一目散に逃げる
確かに見た目はマスルールなんだけど違うの!
なんか鳥肌立ってきた!
追っかけてくる音がしたので急いで部屋に逃げ込み鍵をかけた
驚いた顔をしたジャーファルさんが私に尋ねてくる

「今日は非番でしょう?」
「いっそ働かせて下さい…うう、私の非番が非番じゃない…休日なんてなかっ」

ばーん!と扉が外れて前のめりになる
ドアノブを持ったまま蹴ったのか、取れてしまったそれをぽいっと投げ捨ててマスルールは私を掴まえた
腕を強く掴まれて「ひっ!」なんて情けない声が出た

「セレーナ悪かった…」

またしょぼんと頭を垂れる
2度とその手には乗るかと強く睨みつけた

「わっ私は貴方をマスルールとだなんt「非番なのにデートに誘わなかったのがいけなかったんだな。よし、行こう」
「人の話を聞け!いやあああ引き摺るな!ジャーファルさん助けっ固まってないで助けてええええ」
「………ハッ!ま、マスルール!嫌がる人を無理に誘うのはよくありません!」

我に返ったジャーファルさんが助け舟を出してくれた
流石国を仕切る政務官殿!素敵!かっこいい!

「あとデートを誘うには遅すぎます!明日になさい!」
「突っ込みどころ違う!」

ああもう忘れてた。この人はつっこみの皮を被った大ボケだったんだ
尊敬する彼の言うことだからかマスルールは素直に頷いた
そして私の両手を握り顔を真面目な物にして近付ける

「すまなかった、デートは止めて今から部屋で愛し合おう」
「真面目な顔して変態発言かますのやめっ」

両手を取られたままキスされた
普段だって遠慮ない時があるけれど、今日はそれよりもっと酷い
いつのまにか後頭部をがっちり固定されて息継ぐ暇もないほど何度も深く濃く

私が胸を押し返すまでそれは続いた
ようやく離れたから文句のひとつでも言ってやろうとマスルールの顔を見る
そこにはいつもより数倍嬉しそうな表情があった
まるで、というか確実に私とこうしてキスできて幸せだ、とでも言いたそうな

「あっあのねマスルール!」
「! なんだ?」

声が上擦った所為で怒っているとは捉えなかったらしい
呼べばぱあっと顔を輝かせた
…そんな顔されたら怒れない。あとちょっと、…可愛いとか思ってしまった

「〜っ!人前ではやめて…」
「わかった」

そう、此処はまだ人が沢山いる仕事場
ジャーファルさんにまで見られてしまって、正直穴があったら入りたい
改めて思い返せば余計恥ずかしくなって真っ赤になった私の頬をマスルールが撫でる
反対の手で私の片手を取り、甲を上に向け指の付け根あたりにちゅっと唇を落とした

わ、わかってない!
人前でするのはだめだって言ってるでしょ!
慌てて手を引き抜き叫ぼうとした私をマスルールが見つめる
一転してとても真面目な顔だったから心臓が高鳴って、思わず見惚れてしまった

「セレーナが嫌がるなら…次に人前でするのは式の時だけにする」

柔らかい笑みと一緒にそう言った
頬を撫でていたはずの手が腰にまわってぐっと引き寄せられる
手の甲に触れていた唇が、瞼や頬に音を立てていく

「さっきと言ってること違うじゃない!」
「口にはしていないだろ?寂しいなら「しなくていい!」

必死にもがいて離れる
とにかく部屋から出たくて一目散に廊下に逃げた
なんとなく。なんとなく気になってちらりと後ろを見れば寂しそうな顔

「…ああ、私本当にだめ、弱いなぁ…」

バカ、と自分に呟いた
戻ってきてぎゅっと手を握る
驚いた顔が見えたけどすぐにそっぽを向いてやった

「もう…部屋帰ろ?」
「…ああ!!」

向日葵みたいに笑うマスルールも、まあ、たまには悪くないかな

「まだ夕刻だから朝まで長いしな!」
「へっ?…え!ちがっ、やだ!引き摺らないでえええええ!!!」





→Next Tuesday!!





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