目覚めてすぐに着替え、僕は与えられた仕事部屋へ向かった
窓辺の椅子に腰掛けて空を見る

本当は、謝りに行くべきなんだろう

それが1番正しい行動というのは理解している
許してもらえずとも、何度だって頭を下げて
彼は心優しいから最後にはいつも通りに戻るだろうけど

「…それじゃ、だめなんだ」

僕はまた同じことを繰り返す
弱い心が少しでもざわつけば、彼に最低な言葉を吐きかける
自分が強くならなくちゃ意味がない

「頑張ろう」

独り言を呟いて楽器を手に取る
歌わずにただ弾いていると、いつしか昼になった
気付かなかった僕に侍女の子が昼食を持ってきてくれた

「お身体は大丈夫ですか?」
「ええ」
「ではヤムライハ様をお呼びしても宜しいでしょうか?昨夜の件でお伺いしたいことがありますそうで…」

忘れてた。勝手に出てった挙句部屋に運んでもらって、お咎め2倍かなこれは
彼女が呼びに行って5分も経たずにヤムライハさんは入ってきた

「言いたいことは沢山あるわ」
「申し訳ございません…」
「私は、セレーナが心配なの。お願いだから無茶はしないで」

僕の手を取って彼女が言う
その表情はとても辛そうなもので
じっとそれを見ると話題を変えられた

「そうそう新しい方程式が出来たのよ!」
「あ、本当ですか?」

嬉しそうに魔法のことを話すヤムライハさん
頷きながらも僕はさっきの表情が気にかかる

「そうだわ、少し街に買出しに行きたいの。手伝ってくれない?」
「荷物もちは出来ませんがそれでも良ければ喜んで」

外出用のフードを被って2人で市場へ向かう
案の定、彼女は次から次へと魔法の調合に使うであろう物を買い込んでいく

「こっちとこっちどちらがいいかしら…」
「左の方が色合いが綺麗ですね」
「じゃあそれにするわ」

ピスティさんとの買い物の時と、台詞そのものは一緒なんだけど
持っているものが爬虫類の尻尾だから不思議な感じだ

「何か買いたい物はないのかしら」
「大丈夫ですよ。必要な物は手配していただいてますし」
「髪の結い紐は?それ、古い物じゃない?」

長い一房を纏めている赤い結い紐
髪ごと持ち上げてそれを見る
同じことをピスティさんにも言われたな

「いいんです。これだけが唯一故郷からもってこれたものだから…」

当時着ていた服や靴はもう無い
自分の故郷も、迷宮からもずっと身につけているのはこの紐ぐらい
飾りの無い簡素なものだけど、母や姉達とお揃いだった

「…そう。なら大切にしなくちゃね」
「はい。…ところでまだ買うんですか」
「ええ!きゃあ!こんなとこに○○××※○△〜」

そろそろヤムライハさんが何言ってるのか分からなくなってきたな
近くの休憩所に腰を下ろして一息吐く
ざあっと風が潮の香りを運んで頬を撫でた

吹いてきた方角を見る
露店が立ち並ぶ中、路地裏があった

「―――……」

誘われるように路地裏へと足を運ぶ
一歩入ればまるで別の国のような静けさ
こんな所がシンドリアにあったんだ

「そこのおにいちゃん」

服を引っ張られるのと同時に呼び止められた
まだ齢10程の少女が僕を見上げている

薄汚れているせいで肌の色は分からない
暗い紺色の波打つ髪、獣のような金色の瞳

既視感が僕を襲う

「わたしを、かってくれない?」
「買う…?」

少女は頷いて笑った
言葉の意味通りに受け取るならば、売春か奴隷か
どちらにしても子供が自ら口にすることじゃない

…それも、この国でなんて
瞳を伏せて屈み込み彼女と視線を合わせた

「これあげるよ」

懐からいくらか入った袋を渡した
今日は何か買うつもりじゃなかったから、それほど多くはないけれど
元手に身形を整えたり食料を買ったりは出来る

「それが無くなって困ったなら王宮まで来て、『セレーナ・アイオスに呼ばれた』って言うんだ。じゃあね」

これ以上進む気がなくなったから路地裏から出る
大荷物を抱えたヤムライハさんがきょろきょろ辺りを見渡していた

「すみませんヤムライハ様。少しお手洗いに行ってました」
「ああいた!そろそろ日も暮れるし帰りましょう」
「少し持ちますよ」

両手で持てる範囲の荷物を受け取り2人で戻る
白羊塔を通った際、皆が慌しく動き回っていた







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