どうしよう、どうしよう

「セレーナ?」
「どしたのこんな所で」

ぎこちなく顔を上げればヤムライハさんとピスティさんがいた
僕は声にならない声で、「どうしよう」と呟いた

「どうしよう僕なんであんなこと言っちゃったんだろう、何が、どうして」

わあっと泣き崩れてヤムライハさんに凭れかかる
慌てる2人を見れば見るほど、取り返しがつかないような気がして不安になる

「追っかけなきゃ、追っかけて謝らなきゃ。許してくれなかったらどうしようどうしたらいい?最低だ最悪だ」
「落ち着きなさいセレーナ。とにかく一度王宮に戻りましょう?」
「そうだよ。ほら立てる?」

半ば引っ張られる形で王宮まで戻っていく
その間僕の頭はただひたすら「どうしよう」を繰り返していた


怖い


人から嫌われることが

ただの人であればまだ良かった
だけど現実は彼を選んだ

ぐるぐるしたもやもやした気持ちに
引き裂かれるような痛みが加わる

なんとか辿り着いた自室で、寝るように念押されたけれどもすぐ抜け出した
紫獅塔にある彼の部屋に通してほしいと衛兵に頼み込む
すんなり通され扉の前で僕は立ち竦む

ノックを2回しようと拳を上げる
手の甲が扉に触れる前に、低い声が胸を抉った

「帰れ」

その一言に全て含まれているようで
握り拳は叩くことなく翻り、逃げるように僕は塔を飛び出た



どうしようどうしようどうしよう
何を言えばいいんだ。何をしたらいいんだ

ああもうそれさえも願うことすら許されてないのかもしれない

当たり前だ。自業自得だ
彼の善意を全て踏み躙って詰ったくせに
許してもらおうだなんて虫の良い話



行き先も考えずに走り続ける
誰かに呼び止められ、腕を引かれ止まった

「こんな夜更けに鬼ごっこか?」

にっこりと王が微笑んだ
誰でもいい。何でもいい
僕に教えてほしい。これからどうしたらいいのか

突然抱きついた僕に王は驚いた声を上げた
でもちゃんと受け止めて、髪を撫でる

「泣いている人を放ってはおけないな」
「うぁ…っふぇ、もう、いやだ…!」

頭痛のおとが酷く鳴り響く
男でも女でも受け入れてくれる彼が好きで、だから僕はどちらでもいいんだと思っていたのに

本当は心の奥底では女になりたかったのかもしれない

もう一度想いを告げて、許されるなら死ぬまで傍にいたい
膝に乗って可憐に微笑み綺麗に優美に軽やかに
誰からも咎められず、可笑しいと思われない、そんな姿に

「普通がよかった、普通に生まれたかった、なんで僕はこんな民族でこんな身体で心で、どうして僕だけ決まらないんだ…!」
「…セレーナは自分が嫌いか」
「嫌い…嫌いです。僕もナーキスも恋も運命さえも全部全部、」

口許を手で覆われた
続きを言うことは許さない
そう訴えかけるような瞳に不安になる

「俺はセレーナが好きだぞ。綺麗で美人で可愛くて歌も踊りも上手いし頭も良い、何より誰かみたく口煩くない」

いつもの王の笑顔に戻る
離れていく手を見つめながら王の言葉を反芻する

「…僕も、王が好きです。強くてかっこよくて輝いていて、誰より国を未来を見据えている」
「そうか」

頭をもう一度撫でられる
手を引かれ、部屋まで送り届けられた
御礼を言ってからベッドに潜り込む

瞳を閉じると昔のことを思い出した
まだ迷宮に居た頃、お兄ちゃんに歌を教えてもらった
楽譜通りに歌ってもいつも怒られて
『お前は恋心が分かってないな』って呆れられた

今はもう、分かってるよ

だけどやっぱり難しい
人の事はあんなに褒め称えれるのに
どうして彼にだけはいつも上手く言葉が紡げないんだろう

みっともない姿ばかり見せてしまう
くだらない弱音ばかり吐いてしまう

歌のように、貴方に綺麗に想いを届けれればいいのに







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