「オメー本当に愛想ねぇなー」
「はぁ」

僕より早く、シャルルカンさんが絡んだ
何故か咄嗟に近くのソファーに隠れる

「女の子も困ってんだろ」
「アラ、私は寡黙なお方大好きですよ?」
「おっ良かったなー!」

漆黒の夜空みたいな黒髪の女性が綺麗に笑ってマスルールさんの腕を取る
僕はそれをじっと陰から見つめる

「この際タイプだの何だの言ってないで、ちょっとは恋人でも作れよ」
「マスルール様のタイプってどんな方なんですか?」
「…さあ…」
「胸のでかい子だよな。何がいいんだかさっぱりわかんねぇけど」

胸。つられて自分のものを見る
あの頃から僕の胸は変わらないまま
だけど別にショックではない。大きい方が好みだってことなだけで、それだから好きになるとは限らないし

ひょいとソファーから出て近寄る
僕に気付いたシャルルカンさんがばしばし隣を叩くので座った

「アイオスも彼女つくんねーの?」

何気ない一言だった
一瞬固まった僕を見て、マスルールさんが何か言いたげに口を開く
だけどそれを言われるより先に僕が言葉を紡いだ

「ええ、サファイアとエメラルドのどちらが優れているかと聞かれて困るように、僕は1人の女性を愛することは難しいですから」
「確かにお前軽そう」
「シャルルカンさんにだけは心底言われたくない台詞ですね」

怒り出した彼を無視して誰のものか分からない酒を飲んだ
…何だろうコレ、少し、苦いな…

「マスルール様に彼女いないなら立候補したいですー!」
「あ、私もっ」
「全員相手とかお前ならできるんじゃね?よし、いけ」

次から次へと女性が集まってくる

腕を取って、胸に押し当て
膝に乗って、口許を寄せて

その甘ったるい声で一体何を紡ぎ出すというんだろう
眉間に皺を寄せたまま酒を煽った

やっぱり、美味しくない

「………まするーる、さま」

シャルルカンさんを女性を押し退けて傍に寄る
膝に乗っている人を睨んで下ろさせ、代わりに座ってぎゅうっと抱きつく

ほら見ろ。僕だって出来る
僕にだってこれぐらい許される

「おーい…アイオス?お前酔ってるんじゃ…」
「酔ってるのはシャルルカン様のほうでしょう。公私の切り替えが早いことは結構ですが、私事があまりにもだらしなさすぎて呆れますよ。もう少し配慮というものを覚えては如何ですか」
「…セレーナ、「はいなんでしょうマスルール様ぁ」

邪魔する人をあしらって、彼の呼び声に答える
より一層強く引っ付けば抱え上げられた
まるで小麦粉袋を担いでるようだ

「やだぁー、やですよーコレじゃあ小麦ですか大麦ですかー?」
「先輩俺これ連れて帰りますんで」

無視するマスルールさんの背中をぽかぽか殴る
けど鎧に当たる拳の方が痛くてすぐ止めた
体勢は変わらないままお店を出ようと歩き出される
なんだか哀しくなって、もがいて出来る限り小さく蹲った

「おろしてっください!」

蹲ってるのも飽きて暴れると、溜息と一緒に下ろされた
だけど手は僕の肩を支えて離さない
じいっと見上げて、僕は自分の衣服の前を肌蹴さした

「意外とこっちもいいと思いませんか!」
「分かったから仕舞え」
「見てないです、答えになってません。触って下さい1回と言わず100回ぐらいー」

腕を取って触らそうとするけど動かない
さっきの女性には抵抗しなかったくせに
大きくなければ触る価値も無いってことですかそうですか

「やっだやだやだねーねー、お願いですからぁ…」
「――女の我侭みたいだな…」

ぽつり、と漏らした言葉にマスルールさん自身が驚いていた
泣き縋っていた腕を離して衣服を着直す

ガンガン頭が五月蝿い

「僕が女みたいじゃ、ダメですか」

抑揚の無い声は雑踏に紛れて消えた
それでも彼には聞こえたみたいで、僕を見ている

女だったら貴方と普通に恋愛できた
大勢の前で好きと告げても、膝に乗っても許される
だけど貴方が望むのはそんな僕じゃないのですか

今の関係だって嫌いじゃない
だけど、もし、いや…確実に訪れるだろう区別の時に、僕だけが思い込んだ望む姿になってしまったら

「男の方が良いですか」
「そうは言ってない」
「では何故嫌がるんですか。女みたいな行動をとって、どうして」
「…いいから帰るぞ…」

2度目の溜息に心の中がもやもや渦巻く
お前だからと言ってくれたくせに
いつもそうやってはぐらかして、本当は、本当は

「――そうですよね、今の状態なら後腐れないし男なら何があっても一時の気の迷いと捉えれる。女なんて…居なくなったところで別に「いい加減にしろ」

ぱちん、と軽い音と痛みが頬に広がる
叩かれた頬を押さえながら彼を見る
その瞳には呆れなんて可愛いものはなかった

「……」

無言のまま僕の横を通り過ぎる
急いで追って謝らなきゃ
頭では分かっているのに、身体は微塵たりとも動かない

ようやく振り向いた時にはもう、姿は消えていた
途端全身の力が抜けて地面にへたりこむ







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