「―――あれ、僕の部屋…?」

起き上がって背中にあったものを見る
確かに椅子で寝たのに、いつの間にかベッドで横たわっていた
寝すぎて誰かに運ばれたのかなぁ。窓の外は暗いし

「失礼します。ああっお目覚めですかセレーナ様!」
「おはようございます。どれくらい寝ていましたか?」

入ってきた侍女の子に尋ねる
すると彼女は口篭った
まさか、と思い僕は恐る恐る言葉を繋げる

「何日寝ていました、か」
「…2日程で御座います。お目覚めにならないので此方にお運びして…」

またかと溜息を吐いた
半年ほど前から眠たいと思って寝ると、そのまま数日目覚めないことがあった
貧血や眩暈より、僕はこっちの方が嫌だ

かといって睡眠を蔑ろにするわけにもいかない
一度試みたけど、速攻でマスルールさんに捕らえられ部屋に戻され、起きたらヤムライハさんに説教を喰ら…この間と似たようなことをしてるんだな僕。学習能力あまりないな

「私ヤムライハ様に報告してまいりますね」
「えっ。…あーそうですね。お願いします」

何度目の説教だろう
彼女が去ってから大きく肩を落とす
折角僕を狙う者はいなくなったのに
王宮からは殆ど出れない
その王宮すらも限られた場所に、僅かな時間だけ

「あっ!シャルルカンさんとの約束すっぽかした…」

律儀な彼のことだから場所まで来ていただろうに
どう謝るか頭を抱える
今度はこっちから誘ってみるか

コンコン、と扉が叩かれた
ヤムライハさんかな。覚悟して扉を開ける

「よっ」

意外にもそこに居たのはシャルルカンさんだった
驚く僕を余所に、きょろきょろ周囲を見渡して顔を寄せてくる

「出掛けるぞ」
「今からですか?もう夜遅…「よっししゅっぱーつ!」

軽々と担ぎ上げられ、騒ぐ口は掌で塞がれた
ああ…約束のこと根に持ってるなこの人
早々に諦めて彼のしたいがままにさせておく

少なからず夜のシンドリアには興味があったし
侍女の子には心配をかけるな、と申し訳なく思いつつ心は少し躍らせる

「とうちゃーく。ほら」

国営商館が立ち並ぶ場所
煌びやかな衣装の女性、酔って浮かれた客人
花や酒の香りが充満していて、シンドリアのようでシンドリアじゃないみたいだ

「さっ、飲もうぜ」
「僕もですか?」
「当たり前だろ。中で他の奴も待ってるしよ」

シャルルカンさんが指差す店に入る
すぐに女性がやってきて、ちやほやされながら席へ向かった
人を連れてきておいて、彼は別席で飲むらしい

「初めましてアイオス様。噂に違わず本当にお美しいんですね」
「噂?」
「王宮には弁舌もたおやかな見目麗しい方がいらっしゃると、此方では持ちきりなんですよ」

差し出されたお酒を一口含みながら考える
確かに僕出ないからな。謝肉宴も王かマスルールさんの傍にずっと居るし
王宮勤め以外の人と話す機会って、そうそう無い

「シャルルカン様も素敵ですけど、アイオス様も素敵ですわ」
「ありがとうございます。シャアバン月の新月のような貴女の魅惑も素敵ですよ」

八人将御用達とだけあって、女性のレベルが高い
その柔らかな口許に顔を近付け微笑む

頬を染める女性達を横目で見ながらグラスの中のお酒を一気に流し込んだ
美味しいか不味いか、と聞かれれば美味しいと思う
それほど僕はお酒が好きではないらしい

「もうおひとつどうぞ」

断る間もなく2杯目が注がれる
酒の独特の香りが鼻腔を強く刺激する

後ろからシャルルカンさんの笑い声が聞こえた
振り返れば楽しそうに酔っ払ってる

誰が連れて帰るんだか
と溜息を吐いた時、視界に赤色が見えた
グラスになみなみ注がれた酒が零れるのも気にせず、慌てて立ち上がって向かう


彼も来てたんだ!
そう喜ぶには少しだけ早かった







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