「でも使われていない巣なんてそう簡単に…」
「あったぞ」
「早い」

一瞥しただけでは判断できないような場所に、雪に隠れて洞穴のような巣があった
入り口の雪を少し掻き崩して奥へ進む
マスルールさんは獣のにおいはするが今はいないって言うけど、薄明かりの中獣の巣に忍び込むのはやっぱ怖い
ランプで探りつつそろそろと向かう

「あれ分かれ道」
「こりゃビーキングベアーの巣ですね」

先に奥へ行っていた彼らが帰ってきた
両方とも獣は居ないし、食料も溜め込まれていないから引っ越したんだろうと
決して暖かいとは言えないが、風が吹き込まない分マシだ

「そんじゃ俺らはこっちで〜」
「へっ」
「お休みなせぇ!どうぞごっゆくり!」
「ああ…」

左側の巣穴へぞろぞろ行ってしまった
そういう発言は、とても、…残された側としては気まずいものがあるんだけど
もう片方の巣穴に毛布を広げていくつかの食料を取り出す
否定とかするのも恥ずかしくて黙って食べていると、不意にマスルールさんが口を開いた

「魔力」
「はい?」
「大丈夫なのか…?」

自分の身体を見る
うん、特に息苦しさは感じないし、体内の魔力はまだある

「ええ大丈夫です。ご心配、」

ありがとうございます。という言葉を遮って膝上に乗せられる
何事かと見上げれば綺麗な球体の宝石のような物を手渡された
これどこかで見たような…

「ルフの瞳…?らしい」
「ああ!ヤムライハ様のところの」

以前彼女が使っているのを見た記憶がある
持ち主の魔力によって通話可能領域が変わるんだっけ
此処からシンドリアって、結構離れているけど大丈夫かな

「出てから手紙しか出していませんでしたね」
「ああ」
「かけた方がいいんでしょうか?」

でもマスルールさんも、そんなに多くはなかったはず
再び見上げた瞳が光…光る?

「待って下さい。僕今貴方と思考共有出来ている気がする」
「そうか」
「だ、からっ、それ…っ」

逃げられないよう固定してきた腕が身体を弄る
不揃いな髪を退けて耳を軽く食まれた

「はっ、ぁ…」

ぬるっとした舌の感触が耳の中に広がる
脇腹を撫でていた手が片方は下って太股の内側を、もう片方は上がって胸元を下から持ち上げるように動かされる

「増やせば問題ないだろう」
「んっあっ、ふぁ」

なんて他意の無い声なんだ
こうやって僕を善がらしときながら、当人は通信手段のための魔力増幅ぐらいにしか考えてない
それでもあの夜怒らして以降ちゃんと触れてもらったのは今日が初めてで、止めようという気は殆ど起きない

ほんの少し、本当に少しだけ頭の片隅で、このまま流されちゃ駄目だって思うんだけど
数分弄られただけでとろとろになった頭じゃそれ以上深く考えられない
結局そのまま好き勝手されて、全身に疲労と変な満足感を与えられた

「…魔力送ればいいんですね」
「ああ」

触るだけ触って何事もなかったかのような顔
ちょっと、いやかなり腹立たしいけど連絡の方が先だ
ルフの瞳を手に持ち魔力を送って暫くすれば、向こう側から王の声が届いた

「セレーナ!心配したんだぞ!」
「お久しぶりです、王よ」
「マスルールお前さてはコレの存在忘れてただろう!」
「はあ、まあ…」
「ちょっとシン私にも代わってくだ、あっ、こら逃げるな!」

ばたばたと走り回る音やジャーファルさんの声も聞こえる
変わってないなぁ、シンドリアは
どこかほっとして恐らく逃げているだろう王に呼びかける

「もう少しでスカンディーナに着きます」
「そうか。怪我はしていないか?」
「はい、ご心配痛み入ります。…マスルール様のおかげで大丈夫です」

ちらりと彼を見るけど表情は変わらない
微妙な間を読み取ったのか、はたまた偶然か王が笑う

「また着いた時にでも連絡をくれ。次は昼間がいいな」
「仕事を休めるからですか?」
「お前達が居ないとジャーファルも寂しいようで、俺への風当たりが強いんだ」

ゆったりとした優しい声が空間に広がる
この人の声は聞いていると気持ちが穏やかになるな
追いついてきたのか、ジャーファルさんがいくつか僕達に忠告をする
早く寝なさいとか食べすぎは駄目だとか、ああでもセレーナは食べなさいとか、まるで僕達は彼の息子か何かみたいだ

「ジャーファルさん、そろそろ」
「そうですね。ではお休みなさいマスルール、セレーナ」
「おやすみなさい」
「いい夢見るんだぞ」

此処にはいないのに、2人が傍に居て笑ってる
ジャーファルさんがいつもの微笑を携えて、王は太陽みたいな笑顔で僕の頭を撫でて去ってく
そんな想像すらできるほどに近く感じた

通信を終えたルフの瞳をそっと袋に戻す
増やした分は使い切ったようで、適量の魔力が体内に残っていた
ぱさり、と肩に毛布がかけられる
隣にマスルールさんが座って1つの大きな毛布で自分自身と僕を包む

「…なんですか」
「?何を怒ってるんだ…」
「怒ってないですよ。別に、…たぶん」

背に当たる腕や密接している肩が温かい
僅かに体重をかけてみるけど、びくともしない
そして彼は何も言わない







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