むかし、むかし1人の少女がいた
少女はルフが見える特異な人間だった

だけど少女はそれを誰かに伝えられない
その足は地面を踏み締めず、その手は何も掴めず、その口は何も紡げない
寝床で1日中天井を見上げる日々

終わらない退屈な毎日に1つのルフが現れる
それはどこに行くこともなく少女の傍にずっといた

少女が悲しくなればルフも泣く
少女が嬉しくなればルフも笑う

言葉や動作がなくとも心で会話していた
楽しいと、少女は感じていた
ルフも同じように想っていた

でもそれも長くは続かない

病によってその身の自由を奪われていた少女は
ある日何の前触れもなく死んだ
微笑みながら眠る少女を、ルフはただ見つめることしかできなかった

誰もいなくなった寝床の傍を離れない
待っていれば、帰ってくるような気がした

何週間、何ヶ月、何年、何十年


『いつまで待つ気なんだい?』


溢れんばかりの光に包まれた何かがルフに問うた
いつまでも、彼女が生まれ変わるまで、ずっと
ルフはそう答え啼いた

知らないうちに芽生えた愛情は
人間が抱く恋によく似ていた

少女が夢見た大地を踏み締めさせてやりたい
広げた掌にすべてを掴ませてやりたい
喜びも悲しみも怒りも、清らかな声に乗せて放たせてやりたい


『じゃあ君が彼女の代わりに見ておいで』


願いは現実となり生まれた
ルフが気付いた時には、光は消え、初めて見る自分の身体が視界にはあった

少女によく似た細い四肢に白い肌
色素の薄い緑色の髪、深緑を映した瞳
唯一違ったのは少女と同じ身体ではなく、また他の者とも同じ身体ではなかった



「一説にその光の者は『マギ』だと言われています。ルフを人に変え、新たな命を生み出した偉大なる方」



生み出された命はすぐに外に出た
地面を踏み締め世界を廻る
幾年月が過ぎ、そして、とある街で出逢った

「貴方綺麗な声をしているのね」

柔らかな笑みで話しかけてくる女性
奥底に置いてきた恋がまた少しずつ動き出す

彼女のために踊る
彼女のために舞う
彼女のために歌う

いつしか身体は男のものに変わっていた
2人に障害は無くなり、永遠を誓う

互いに愛し合ってそのまま幸せに
…なんて物語が終わることはなかった
女性は自分の命と引き換えに子を産んだ

妻の亡骸の傍で子供を抱き、彼は呆然と立ち尽くす
腕の中で愚図るいとし子は自分に似ていた

愛しい彼女の栗毛も黒い瞳も一切受け継がず
同じ薄緑色の髪に深い青緑の瞳をし、その身体は自分でも妻でもない、無性のもの
そして自分と同じように魔力を自身で作り出せはしなかった



「…彼の妻が死んだのは彼が歌い続けたことによるものではないかと、僕は思っています。無意識に他者の魔力を奪い、傍に居た彼女が1番の犠牲になった」



彼は妻の葬儀を終えるなり姿を消した
子供を連れ別の街に移り住み、静かに暮らす予定だった
だがそこでもまた人を愛してしまう

何度繰り返しても同じだった

誰を愛しても生まれてくる子は皆自分と一緒
差異はあれど、母親にそっくりな子供は1人としていなかった

多くの子供を連れて彼は最期の場所に、ひっそりとした山を選んだ
身体が限界を迎えていることは自身が1番よく知っている

死の間際子供達を集めて彼は言う

「此処にいくつかの宝石がある」

オパール、ルビー、エメラルド、サファイア、琥珀、ガーネット、ダイヤ、アクアマリン、アメジスト
多種多様に煌く宝石達を1人1人に手渡していく

「肌身離さず持ち歩きなさい。きっと、助けになるから」

瞳を閉じて生涯を思い返す
短い人生だった。30にも満たない、僅かなもの
でも決して苦ではなかった


君が見たかった物を見れただろうか
君の望む歌を言葉を紡ぎ出せただろうか
君を迎えに行くことはもう出来ないけれど







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