腕を取られて人のいない別室に連れてかれた
暫く沈黙が続いて、シャルルカンさんが溜息を吐き、苦々しい表情で話し出す

「個人の趣味だとは思うんだけどよ」
「はい」
「いくら同性愛者でも、アイツばかりは止めといた方がいいんじゃね?」

ん?え?誰が同性愛者?
と尋ね返す間もなく彼は如何にマスルールさんが駄目かを熱く語りだす

あー…ああ、そうだ。教えてないからそうなるんだった
どうやって誤解をとくかな
今目の前で素っ裸になって説明するのも面白いかも

なんて考えていると、ガシッと肩を掴まれる
物凄い近くに顔があってびっくりした

「お前細いからぜってー無理!入る前に死ぬ!」
「…ちょっと落ち着きましょうよ。話すっ飛びすぎでしょう。大体僕は彼と付き合ってるとかそういうわけじゃ…」
「へ?キスしてたじゃねーか」

ひ、人が忘れかけてたことを、よくも…!
言われて思い出して、すぐに顔に熱が集まる
ちがうちがうちがう。アレは魔力の回復!緊急事態だったから!

「ああもうだから…!」

胸を押し返そうと腕を伸ばす
が掌に力が入らず、ぐらりと揺れたと思うと吐き気がした
慌てるシャルルカンさんの顔が見えて、大丈夫と動かしたはずの唇からは声が出ない



視界が霞む。暗い、怖い
手足の感覚がなくなっていく
瞼が重みで閉じていくのを必死に耐える

このまま閉じたら最後、もう目覚めない気がして

そう考えた瞬間背後から恐怖が襲う
死ぬ?此処で?

どうして、なんで、いやだ、いやだ!



「閉じんな!オイ!」

怒号に近い声が聞こえる
左上腕を強く掴まれて痛みが生じた

痛い。痛い…大丈夫、まだ痛覚がある
その痛みを頼りに感覚の無い掌を伸ばす

「どうしたんですか!」
「ジャーファルさんセレーナが…っ」

騒ぎが大きくなっていく
呼応するように胸元が熱い
途切れ途切れの呼吸の隙間に、綺麗とは言えない声を混ぜた

荒い息に紛れたそれにジャーファルさんが気付いてくれた
口許に耳を寄せ、確認するとすぐ僕の胸元の服を引き裂く
シャルルカンさんに上半身を抱えてもらい見たのは、自分の胸にある夥しい数の黒い、斑点

「―――っ!」

思わず息を飲む
体調が著しく悪い時にしかでなかった斑点
今までは足元から現れ、徐々に上にきていたはずだ

なのに今は胸の中心から円を描くように広がっている

一体どうして
極力黒いルフには近寄らないようにしていたのに

「シャルルカン、ヤムライハの所まで運んで下さい!」
「はい!」

掴まっていろと声をかけられ廊下をシャルルカンさんが走る
幸いにも痛みや辛さは徐々に緩やかになってる
彼女の部屋に運ばれて、寝台に身体を横たわらせる

僕の胸元に手を置いてヤムライハさんは眉を寄せた
二言三言ジャーファルさんに何かを告げる

「まだ苦しい?」
「いえ…もう大分戻りました」

そう、と彼女は呟く
数分もしないうちに王がマスルールさんと一緒に現れた
横になっている僕を見て、2人は真剣な表情になる

「王よ、限界です。どうか許可をください」

ヤムライハさんが手を組み懇願する
王は小さく唸り声をあげて、マスルールさんと僕を見比べ、頷いた

「セレーナ故郷に戻る気はあるか」
「え…?」

故郷。そう言われて脳裏に懐かしい光景が浮かぶ
5歳だった僕には鮮明な様子は思い出せず、美化されたものしか出てこないけれど

「なんで帰るんスか…?」

答えれずに黙っていると、マスルールさんが疑問を口にした
この状況下で僕が帰る意味は果たしてあるのだろうか
困惑する僕にヤムライハさんが近付き、体を起こしてくれた

「マスルール君はナーキスがどういうものか知ってるわよね?」
「…まあ、少しは」
「ならどうしてナーキスが魔力を自身で作り出せないか、その理由は?」

マスルールさんは首を横に振る
彼女の言葉にどきっとする
続きはあなたが話しなさいと促すように背に手が添えられた

「―――…少し長くなりますが、」

寝台に座り直しシンドリアの礼をとる
伝える覚悟を決めて、昔話は始まった







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