おしまい、と言ってしまえば書き物はそこで終わる
その先はどうなっていくのか、第三者は知る由もない

だけどちゃんと続いてる僕の軌跡

さあ、此度もお付き合いいただけますか?
僕と彼と、関わる全ての人達の、明けない夢物語を





GhilmanHouris





暑さを避けつつ向かった白羊塔は、壮絶な光景を生み出していた
見渡す限り文官文官文官ジャーファルさん文官文官ぶんか…あ、ピスティさんが遊んでる
少し気が引けたけれど、僕は中に入ってジャーファルさんに声をかけた

「お呼びでしょうかジャーファル様」
「あああ、セレーナ具合は如何ですか?ちなみに用件はそこにメモしてあります」

僕を見る時間も惜しいようで
実は呼ばれたのは3日前の話
しかし生憎僕は体調が悪く、今日まで部屋から出られなかったのだ

指差された場にあるメモを読む
へぇ、次から職場が変わるんだ
肩に重みがかかり、後ろからピスティさんに覗き込まれた

「異動?」
「はい。塔の一室をお借りできるようです」
「へー!大出世だねセレーナたん」

きゃっきゃっと喜ぶピスティさんにお礼申し上げる
僕がシンドリアに来て1年
矢継ぎ早に起きた事件は大人しくなった

宮廷音楽家として王宮内に滞在許可を貰った僕は、平穏無事に過ごせている
感性だけで行っていた歌や踊りの基礎を学び、先日師匠から独立の話を持ちかけられた

シンドリアだけに留まらず、各国に招かれ披露してはどうかと言われたが、丁重に断り今も此処にいる
僕はこの国に恩がある。それは到底返しきれるものではないが、少しでも貢献したい

定期演奏会や酒席以外でも仕事がしたいと嘆願したんだけど
何故か黒秤塔の一室を貰ってしまった
うーん…?どういうこと、ですか

「これまた簡素な部屋だねぇ」
「元々物置だったそうですから…物は全て引き取っていただけたようです」
「イスぐらい残して欲しかったね」
「…まあ、そうですね」

件の部屋には何も無い
ピスティさんと2人悩んでいると、明るい声が聞こえた

「よおっ、どうした2人して」
「シャルちょうどいいね!あのさぁ、」

休憩中なのかシャルルカンさんがいた
家具を調達して運びたい旨を伝えると、何故か嬉しそうに受諾してくれた

「お前らじゃあ無理だもんな。いいぜ、俺がやってやるよ」
「わーシャル超嬉しそう!」
「ありがとうございます、助かりま…あっマスルール様!」

今僕がマスルールさんを呼んだらシャルルカンさん一瞬固まった
けど気に留めずに彼のもとへ近寄る

「…体調は良いのか」
「はい。ご迷惑をおかけしました」

魔力が足りないわけではなく、単純な立ち眩みではあったのだけど
元来あまり体が強くない僕は貧血等も相俟ってぶっ倒れた

幸いすぐに侍女の方が発見してくれて事なきを得ました
その後目覚めてヤムライハさんが凄い顔で傍に居た時の方が正直命の危険を感じた

「そうだマスルール君も手伝ってよー」
「?なにが「いいやコイツなんか使わなくても俺1人で全然平気だろ!!」

ピスティさんの提案を台詞被せてまで拒否した
何をそんなに嫌がるんだろう…?
どちらかといえば普段はマスルールさんを使って楽しようとしていらっしゃるのに

「待ってろすぐ持ってきてやるから!」
「あっ!シャル見立ては私がするー!」

お2人が行ってしまった後、マスルールさんが小さく溜息を吐いた
不思議に思って見上げる僕の頭にぽんっと手を置かれる

「何かあったら呼べ」

そのまま彼も背を向けて去っていく
…ああ、うん、本当にかっこよすぎて僕どうしたらいいか分からないですね
手が置かれた頭に自分の手を重ねてちょっと微笑む

さて、家具が来るまで楽譜やルートなんかを持ってきておこう
足取り軽やかに前の職場まで向かう



翻れば風に靡く薄緑色の髪
それは一房を除いて全て首にかかるか、かからないかの長さに揃えている

幼い頃はその理由が分からなかった
ただ姉さん達が揃えてくれたから、従っていただけ
今は充分意味を理解している

男の身体になれば、長い髪を全て切り落とす
女の身体になれば、長い髪の所まで残りも伸ばす

顔の造形だけでは区別の付き難い僕達が、男女どちらか分けるための目印

だから今は伸ばせない
僕の心は酷く不安定で、身体だってむちゃくちゃだ
いつ、僕は完全な者になれるのだろう






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