そこかしこから嫌な声がする
人間の苦しむ声と、呼応して泣くルフの声

もう、聞きたくない
あの歌もこの声も

僕には一体何が出来る?
苦しむ人達を見ているだけ?

歌は、そんなもののために作られたんじゃない
辛くて苦しくて泣いてしまっても、でも最後にまた進みだすために、どれだけ遅くてもどれだけ小さくても、それを活力に生きるためにあるんじゃないのか
貴方に歌を教えた両親は、こんなことをするために歌ったんじゃないはずだ



「――僕が、止めるんだ」



ヤムライハさんの頬に伝う涙を拭う
彼女を隅にどうにか運んで向こうを見据えた

「斬っても斬ってもキリがねぇ…!?」
「っ、先輩…!」

魔力が切れたのか彼の剣から発していた物質が消えた
タイミングを見計らっていたかのように、重い一撃がシャルルカンさんに加えられる
盛大な音を立てて瓦礫の中に突っ込んでいった


大丈夫。怖がるな。僕ならできる


深呼吸を繰り返す
目前に居るマスルールさんの魔力も切れかけている
早く、早くしないと

ふと彼と目が合った
こんな時ですら僕を心配しているような表情に、僕は笑って返す
心が温かくなって自分の中の微かな魔力がふわふわと優しく飛び回る

あんなに酷いことを言ったのに
醜い我侭ばかり考えて、碌にお礼も言えていないのに
貴方はやっぱり優しくて強くて綺麗な人だ

これが終わったら、もう一度だけ歌わせてください
誰でもないマスルール、貴方のために、貴方だけに

1歩踏み出てアディンを見上げ微笑む
君が望んでいた声をあげるよ
高く透き通る伸びやかな、女性の声を


「現世(うつしよ)は永久にわれを 虐げんとて、誓い立てしが、
 おお、現世よ、そはあやまてり、汝が誓い、とく捨てよかし。
 恋の関守すでになく 恋しき人はわが胸にあり、
 いざ、立ちて触れなん、恋の歓喜を、いざ高く」


ピィ、ピィ、傍にルフが集まってくる
黒いルフが少しずつ白くなる
僕の身に彼らが集い満たされていくのが分かった

沢山沢山やってきて
皆僕のしようとしていることを分かってくれる
ありがとう、と呟いてマスルールさんを見て最後の詩を高らかに宣言した


「君が衣の袖かきあげよ!」


ありったけのルフを、魔力を彼に注ぎ込む
歌と僕を介して集められた全てをマスルールさんに目掛けて
白に覆われてその姿は見えないまま、僕は地面に力無く座り込む

この身に半永久的に魔力を取り入れることが可能なら
僕を入れ物としてそれを放出する事だってできるはず

体中の魔力が無くなっていくから少しずつ息苦しくなる
でも、辛くはない
むしろ嬉しいぐらいなんだ

視界を塞いでいたルフが晴れていく
その先に居たマスルールさんの魔力は戻っていた
いや、それ以上になっている

ガラガラと瓦礫の山からシャルルカンさんも立ち上がった
傷だらけで血だって出ているけど、彼の魔力も回復している

「…な、んで……」

微かな声がした
澄んでいたはずのそれはもう面影が無い
だけどアディンのものだと分かって、なんとか首を動かし彼を見た

奇怪な姿からは涙が流れていた







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