「きゃあっ」
「な、なに?」

禁断の園にはまだ女性が数名居た
突然踏み込んできたシャルルカンさんに驚いている
担がれたまま彼女達にヤムライハさんの居場所を聞いた

「近しい方なら先程見たわ。何かを必死に探しているようだったけど」
「それにしても何故向こうはあんなに騒がしいの?」
「あー…いいか、今すぐ裏の門から逃げろ。表よりは安全だろうからな」

シャルルカンさんの忠告を聞いても女性達は不思議そうな顔をするだけ
無理もない。僕だって信じられないくらいだ
大広間はあんな惨状なのに、一歩外に出れば何もなかったかのような静けさで

「セレーナ!っ、アンタまで」

再び彼女を探し始めると意外とすぐに見つかった
僕達を見るなり血相を変えて詰め寄る

「マスルールくんは!?」
「1人大広間に残ってるぜ」
「!……駄目だわ、私達じゃ手におえない…」

眉根を寄せてヤムライハさんはそう呟いた
降ろしてもらってから、そっと彼女に触れる
小刻みに肩が震えていた

「どういうことですか」
「それは…」

ヤムライハさんが口を開いたのと同時だった
大広間の方向から凄まじい爆音と、突風が吹き込む
そこにあったのは巨大な化け物

黒い身体に金色の獣の瞳
悶え苦しむような奇声をあげている
不自然な位置から生えた腕が何度も何度も瓦礫を叩く

「オイなんだアレ…!」
「失敗したのよ!」

悲痛な声が耳に届く
不快なはずなのに、ひどく懐かしい

「…アディン…?」

自分の呟きと一緒に涙が落ちた
1滴しか出てこなかったけれど、頬を伝い地面に吸い込まれる

「闇の金属器を魔力の無いナーキスが使っても魔人にはなれなかったのよ…!」

金属器。魔人。なれない
必死に頭で理解しようとしても追いつかない
何があの人をそこまで追い詰めたんだ

大広間を突き破って出てきた存在のおかげで、悲鳴は波紋のごとく広がっていく

「ま、まするーるさんは…」
「アイツが死ぬわけねぇだろ」

剣を構えてシャルルカンさんがそう言った
僕に向かって笑いかける
ヤムライハさんの制止の声も聞かずに、彼は特攻していく

「あの馬鹿!…でも失敗したならまだチャンスはあるわ」

杖を取り出し彼女が笑い、ヤムライハさんも行ってしまう
2人の笑った顔が頭から離れなくて僕がただただ立ち尽くす

遠くで剣を振るう姿が見えた
暫くして頭部目掛けて蹴りを叩き込む動作をみつける
水球が刃物のように皮膚を切り裂いていく

誰がどう見ても優勢だった
脅えていた人達が少しずつ彼らを応援する



でも、アディンが笑った



奇怪な姿となった彼の微弱な笑いはすぐに消える
そして代わりに歌が流れた
見た目とは裏腹にとても綺麗で、優雅で、怖く寒い冷たい歌

「う、うぅ…っ」
「え?」

近くに居た女性が突然泣き始める
まさかと思い中庭を走り回ると彼女だけじゃなく、他の人も一斉に涙を流していた

歌に感動してなんて綺麗なものじゃない
辛い何かを思い出させて涙に恨みを込めて

彼らから黒いルフが浮かび上がり吸い込まれていく

「てめ、っくそ…!」
「――っ!」
「や、やめてぇ――いや、いやぁ!」
「ヤムライハさん!」

歌に異常なまでに彼女が反応する
マスルールさんやシャルルカンさんも、眉根を寄せて耐えているようだけどヤムライハさん程じゃない
バランスを崩して落ちてきたのを既の所でマスルールさんが受け止めた

「畜生どんどんでかくなりやがって」
「歌で魔力を取ってるんだ…それも、無理矢理暗く辛くさせて黒いものだけを」
「は?そんなことできるのかよ」

ナーキスを知らないシャルルカンさんが僕を見る
問い詰められそうになるも、マスルールさんが割って入ってくれた

「先輩2人をお願いします…」
「お前は」
「…これ、使います」

自分の鎧を指差す
僕はまだ彼の眷属器を知らない
だけどわざわざ宣言するってことは、あまり使わないものなんだろう

マスルールさんと僕と、ヤムライハさんを見てシャルルカンさんは溜息を吐いた
彼女を僕に預けて剣を2,3度振る

「勝負は一瞬ってやつだな」

あの剣が彼の眷属器
2人の背中をじっと見つめる
その奥にいるアディンは、得た魔力で好きなだけ暴れていた

「いくぞ!」

掛け声と共に光り輝く
…本来ならば安心するそれが、不安定に見えて僕は腕を伸ばす
掴みきれなかった掌が空を裂いてつられて視線を落とす

僕の腕の中でヤムライハさんが苦しんでいる
涙を流して辛そうに







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